マブチモーターを一言でいうと
マブチモーターは、小型直流モーターを専業に近い形で磨き続け、玩具、家電、自動車電装、医療機器、産業機器へ用途を広げてきたグローバル部品メーカーです。
同じ電機・電子部品の会社でも、アルプスアルパインがスイッチ、センサー、車載HMIを扱う会社だとすれば、マブチモーターは「小さな動き」を作る会社です。日本セラミックが人や物の状態を検知するセンサーに強い会社、メイコーが電子回路の基板を支える会社だとすると、マブチモーターは電気を回転運動に変え、機器の中で実際にものを動かす役割を担っています。
モーターは、外から見ると地味な部品です。スマートフォンのように目立つ製品名が出るわけでもなく、完成車メーカーのように消費者に直接知られるわけでもありません。しかし、車のパワーウインドウ、ドアロック、ドアミラー、パワーシート、バルブ、ファン、ポンプ、電動工具、理美容機器、医療機器、ロボット、産業機器など、動く製品の中には多くの小型モーターが入っています。
マブチモーターの特徴は、長年にわたって小型モーターに集中し、標準化、量産、海外生産、品質管理を徹底してきたことです。何でも作る総合電機メーカーではなく、小型モーターという限られた領域で世界中の需要を取り込む会社です。就活生にとっては、機械、電気、磁気、材料、生産技術、品質保証、海外拠点運営が一体になったものづくり企業です。個人投資家にとっては、車載電装の安定需要と、医療・産業機器への成長投資、そして高い自己資本と株主還元をどう評価するかがポイントになります。
なぜ今マブチモーターを見るのか
マブチモーターを今見る理由は、モーターの用途が「安い小型部品」から「車載・医療・産業機器の高付加価値部品」へ広がっているからです。
かつてのマブチモーターは、模型、玩具、ラジカセ、家電などに使われる小型モーターのイメージが強い会社でした。もちろん、この領域で大量生産の基盤を築いたことが、現在の強みにつながっています。しかし現在の収益の中心は、自動車電装機器です。車の中には、窓を開閉する、ミラーを動かす、ドアをロックする、シートを調整する、空気や液体を流す、バルブを開閉するなど、多数の小型モーターが使われています。
自動車の電動化が進むと、エンジンそのものに関わる部品は減る可能性がありますが、車内外の小さな動きはむしろ増えます。パワーシート、電動ドア、冷却ファン、ポンプ、バルブ、熱マネジメント、快適装備、安全装備にはモーターが必要です。EVやハイブリッド車では、熱管理や電動補機の重要性も高まります。つまり、マブチモーターはエンジン車だけに依存する部品メーカーではなく、車の電動化・快適化・高機能化に関わる会社です。
また、同社が力を入れているのは自動車だけではありません。医療、モビリティ、マシーナリーの「3つのM領域」を成長分野として位置づけ、健康・医療用、産業機器用、ロボット関連、モビリティ関連の拡大を狙っています。2025年にはマブチオーケン、マブチマイクロテック、さらに日本パルスモーターをグループ化し、ブラシレスモーター、ステッピングモーター、制御技術、ユニット化の領域を強化しています。
2025年12月期のマブチモーターは、売上高が2,004億円、営業利益が約255億円となり、売上高は2,000億円を超えました。営業利益率は12%台で、電子部品・モーター部品メーカーとして比較的高い水準です。2026年12月期には売上高2,130億円、営業利益260億円を見込んでおり、2030年に売上高3,000億円、営業利益率15%以上を目指しています。
ただし、単純に高収益な優良企業とだけ見るのは危険です。自動車生産台数の伸び悩み、米欧顧客向けの採用競争、中国・アジアの生産体制、原材料費、為替、成長投資による販管費増加が業績を左右します。マブチモーターを見るときは、小型モーターの安定需要と、用途転換・高付加価値化の成否を同時に見る必要があります。
成り立ち
マブチモーターの歴史は、1946年に創業者の馬渕健一が香川県高松市に設立した関西理科研究所から始まります。戦後の混乱期に生まれた小さな町工場が、のちに世界的な小型モーターメーカーへ成長しました。
1954年には、東京都葛飾区に東京科学工業株式会社が設立され、これが現在のマブチモーターの前身になります。同社は早い段階から小型直流モーターに特化しました。玩具や模型、家電製品向けに小型モーターを大量供給し、子どもの頃にプラモデルや工作でマブチモーターに触れた人も多いはずです。この「小さく、安く、安定して動くモーター」を大量に作る技術が、同社の基盤になりました。
1964年には香港に初の海外拠点を設立し、早くから海外生産へ進出しました。その後、台湾、中国、ベトナム、メキシコ、ポーランド、スイスなどへ生産拠点を広げ、現在では日本、米州、欧州、中国、アジアパシフィックの世界5極事業体制を整えています。マブチモーターは、製品のほぼすべてを海外工場で生産するグローバル生産型の会社です。
この早期海外展開には意味があります。小型モーターは、大量生産、コスト競争、品質の均一性が非常に重要です。顧客が世界中で製品を作るなら、モーターも世界中へ安定供給できなければなりません。マブチモーターは、国内で技術と標準化を磨き、海外で大量生産する体制を早くから作りました。
同社の歴史は、小型モーターを「標準化して大量に安く作る時代」から、「車載・医療・産業機器向けに高付加価値化する時代」へ移っています。玩具や家電から始まった会社が、今では車載電装、医療機器、産業機械、ロボットまで支える会社になっている点が、マブチモーターの成り立ちを理解するうえで重要です。
事業内容
マブチモーターの事業は、基本的には小型モーターの製造販売です。会社としては単一事業に近い構造ですが、用途市場別に見ると、自動車電装機器市場とライフ・インダストリー機器市場に分けて理解できます。
最大の柱は、自動車電装機器市場です。ここには、パワーウインドウ用、ドアロック用、ドアミラー用、パワーシート用、エアコンダンパー用、バルブ用、ファン用、ポンプ用などのモーターが含まれます。車の中で何かが静かに動くとき、その裏側には小型モーターがあることが多いです。
パワーウインドウ用は、かつてからの大きな用途です。ドア内に組み込まれ、窓ガラスを上下に動かします。ドアロック用は、電動ロックやスマートキーに関わります。ドアミラー用は、鏡面の角度調整や格納機構に使われます。パワーシート用は、前後、上下、リクライニング、ランバーサポートなどを調整するために複数のモーターが使われます。高級車やSUV、EVでは、電動シートや快適装備が増えるため、1台あたりのモーター搭載数が増える可能性があります。
バルブ用、ファン用、ポンプ用は、車の電動化と関係が深い領域です。EVやハイブリッド車では、バッテリー、モーター、インバーターの冷却や熱管理が重要になります。空気や液体を流すファン・ポンプ、冷却系や空調系のバルブには、小型モーターが使われます。マブチモーターは、こうした新しい車載用途の拡販に力を入れています。
もう一つの柱が、ライフ・インダストリー機器市場です。ここには、健康・医療用、理美容用、家電・工具・住設用、OA機器用、産業機器用、ロボット関連などが含まれます。たとえば、電動歯ブラシ、理美容機器、医療ポンプ、分析装置、介護機器、電動工具、小型ロボット、搬送装置など、動きを必要とする機器にモーターが使われます。
近年は、健康・医療用が堅調に推移しています。医療機器では、小型で静かで信頼性の高いモーターが必要です。血液、薬液、空気を精密に送る装置、検査機器、診断機器、介護関連機器などでは、モーターの故障が機器全体の信頼性に直結します。玩具や一般家電よりも要求水準が高く、付加価値も出しやすい領域です。
収益構造
マブチモーターの収益構造は、小型モーターを大量に生産し、世界中の顧客に供給することで成り立っています。ただし、単に数量を増やすだけではなく、売価、製品ミックス、用途市場、為替、生産効率が利益を左右します。
自動車電装機器用は、売上の大きな柱です。完成車メーカーやTier1サプライヤー向けに採用されれば、車種のモデルライフに沿って数量が出ます。車の生産台数が増えれば需要は伸びますが、完成車メーカーやTier1サプライヤーからの価格要求も強いです。新規採用を取るには、性能、品質、コスト、納期、グローバル供給体制が必要です。
自動車向けでは、1台あたりのモーター搭載数が重要です。世界の自動車生産台数が大きく伸びなくても、パワーシート、電動ドア、熱管理、バルブ、ポンプ、ファンなどの搭載が増えれば、モーター需要は増える可能性があります。マブチモーターがパワーシート用やバルブ用ユニット、ファン・モーター・ユニットに注力しているのは、単なる台数増ではなく、車1台あたりの搭載価値を高めるためです。
ライフ・インダストリー機器用は、自動車より用途が分散しています。健康・医療、理美容、家電、工具、住設、産業機械、ロボットなどです。用途が分散している分、自動車生産に依存しすぎない効果があります。ただし、家電や工具は消費景気の影響を受けやすく、価格競争もあります。医療や産業機器は付加価値が高い一方、開発期間や品質要求が厳しくなります。
2025年12月期は、売価・プロダクトミックスの改善が営業利益を押し上げました。数量を増やすだけでなく、採算のよい用途や高付加価値製品を増やすことが、収益性改善の鍵です。2026年12月期も、販管費や研究開発費の増加を見込みながら、売価・プロダクトミックス改善で営業利益を伸ばす計画です。
投資家が見るべきなのは、モーター販売数量だけではありません。平均単価、製品ミックス、車載の中型モーター比率、医療・産業向けの伸び、M&Aで加わった企業の売上貢献、営業利益率の改善を見る必要があります。
事業内容の特徴
マブチモーターの事業の特徴は、小型モーターに集中しながら、用途を広く分散していることです。
モーターは、構造だけを見ると単純に見えます。コイル、磁石、シャフト、軸受、ブラシ、整流子、ケースなどで構成され、電気を流すと回転します。しかし、実際の製品では、効率、寿命、静音性、発熱、耐振動性、トルク、回転数、サイズ、コスト、量産性がすべて問われます。車載用であれば高温・低温、振動、長寿命が求められ、医療用であれば信頼性や静音性、精密な制御が重要になります。
マブチモーターは、標準化を重視してきた会社です。顧客ごとに完全な特注品を作るのではなく、共通化・標準化されたモーターをベースに、顧客用途へ展開することで、量産効率と品質を高めてきました。これは、低コストで安定した製品を世界中に供給するうえで大きな強みです。
ただし、現在は標準品だけでは成長が限られます。自動車の電動化や医療・産業機器向けでは、モーター単体ではなく、ギア、制御、センサー、ユニット化が求められます。マブチモーターがM&Aでマブチオーケン、マブチマイクロテック、マブチモーターNPMをグループ化しているのは、モーター単体からユニット・制御・高付加価値領域へ広げるためです。
また、同社の生産は海外工場が中心です。日本の本社や技術研究所で開発・設計・生産技術を磨き、海外拠点で量産する体制です。小型モーターは大量生産品であり、コスト競争が厳しいため、海外生産の効率が利益を左右します。一方で、車載や医療向けは品質要求が高いため、低コストと高品質を両立する必要があります。
就活生の視点では、マブチモーターは「小型モーター」という一つの技術を深く掘る会社です。製品の幅はモーターに集中していますが、用途は自動車、医療、産業機械、ロボット、家電、理美容まで広いです。電気、機械、磁気、材料、制御、生産技術、品質保証、海外拠点管理に関心がある人には、専門性を磨きやすい会社です。
競合他社との違い
マブチモーターの競合には、ニデック、ミネベアミツミ、ジョンソンエレクトリック、アメテック、Maxon、MinebeaMitsumi系のモーター事業、各種中国・台湾・欧州の小型モーターメーカーなどがあります。用途によって競合は変わりますが、小型モーターの世界は価格競争と品質競争が同時に起きる市場です。
ニデックは、モーターの総合メーカーとして非常に幅広い領域を持っています。HDD用モーター、自動車向け、産業用、家電向けなど多様で、M&Aによって事業を広げてきました。マブチモーターはニデックほど総合的ではなく、小型モーターに集中している点が違います。集中しているからこそ、用途を絞った標準化と量産効率に強みがあります。
アルプスアルパインとの違いは、アルプスアルパインが操作部品、センサー、車載HMIを幅広く扱うのに対し、マブチモーターは機器を実際に動かすモーターに特化している点です。アルプスアルパインが「人が操作する入口」に強い会社だとすれば、マブチモーターは「機械が動く出口」に強い会社です。
日本セラミックとの違いは、日本セラミックがセンサーによって人や物の状態を検知する会社であるのに対し、マブチモーターはモーターによって動作を生み出す会社である点です。自動化やロボット化が進むほど、検知するセンサーと動かすモーターはセットで重要になります。
メイコーとの違いは、メイコーが電子回路基板を通じて電気信号の土台を支える会社であるのに対し、マブチモーターは回路から受けた電力や制御信号を実際の動きへ変える会社である点です。同じ電子部品でも、基板、センサー、モーターでは役割がまったく違います。
マブチモーターの独自性は、小型モーター専業に近い集中力と、海外量産体制、標準化、車載・医療・産業機器への用途展開です。競合と比べると、派手な新技術企業というより、安定して大量に高品質モーターを供給しながら、成長領域へ少しずつ製品ミックスを変えていく会社です。
事業の現代での潮流
マブチモーターを取り巻く第一の潮流は、自動車の電動化です。EV化によってエンジン関連部品は減る可能性がありますが、車内外の小型電動機構は増えています。パワーシート、電動ドア、バルブ、ポンプ、ファン、空調、熱マネジメント、ADAS周辺の機構部品など、モーターが使われる場面は広がっています。
第二の潮流は、快適装備の拡大です。自動車は移動手段であると同時に、快適な室内空間としての価値が高まっています。シート調整、ミラー、サンルーフ、ドア、空調、収納、車内照明、電動格納機構など、乗員が直接感じる機能には小型モーターが多く使われます。高級車だけでなく、量販車にも快適装備が広がれば、車1台あたりのモーター需要が増えます。
第三の潮流は、医療・ヘルスケア機器の成長です。高齢化、在宅医療、健康管理、診断機器の小型化により、小型で信頼性の高いモーターへの需要が増えています。医療用ポンプ、検査装置、介護機器、歯科・理美容機器などでは、静かで正確で長寿命なモーターが必要です。マブチモーターが健康・医療用を重視するのは、この市場が景気変動に比較的強く、高付加価値化しやすいからです。
第四の潮流は、ロボット・産業機器です。工場自動化、物流自動化、サービスロボット、ヒューマノイドロボットの開発が進むと、小型モーター、ステッピングモーター、ブラシレスモーター、ギアユニット、制御モジュールの需要が増えます。日本パルスモーターのグループ化は、こうした制御性の高いモーター領域を強化する動きと見ることができます。
第五の潮流は、原材料とサプライチェーンです。モーターには銅線、磁石、鉄、樹脂、電子部品が使われます。銅やレアアース、鋼材、樹脂価格が上がると原価を押し上げます。また、中国、ベトナム、メキシコ、欧州などに生産拠点を持つため、為替、関税、労務費、地政学リスクも業績に影響します。小型モーターは単価が小さいからこそ、コスト管理が利益に直結します。
強み
マブチモーターの強みは、第一に小型直流モーターへの集中です。長年にわたり、モーターを小さく、安く、安定して、世界中へ大量供給する力を磨いてきました。特定の流行製品に依存するのではなく、動きを必要とする多くの機器に製品を供給できることが強みです。
第二の強みは、標準化と量産力です。小型モーターは、顧客の個別要求に応えながらも、完全な特注ばかりになるとコストが上がります。マブチモーターは、標準化された製品をベースに用途展開し、品質とコストを両立してきました。大量生産品で利益を出すには、この標準化の考え方が重要です。
第三の強みは、グローバル生産体制です。1964年の香港進出以降、アジア、米州、欧州へ生産拠点を広げ、現在は世界5極事業体制を持っています。車載や医療・産業機器では、顧客の生産地域に合わせた供給が求められます。海外で安定生産できることは、顧客から見た信頼にもつながります。
第四の強みは、車載電装機器での実績です。パワーウインドウ、ドアロック、ドアミラー、パワーシート、バルブ、ファン、ポンプなど、自動車の中で多くの用途を持っています。車載部品は品質要求が高く、一度採用されると一定期間継続するため、安定した売上基盤になりやすいです。
第五の強みは、財務の健全性と株主還元余地です。マブチモーターは自己資本が厚く、営業キャッシュフローも安定的に生み出しています。2025年12月期の営業キャッシュフローは353億円、フリーキャッシュフローは248億円でした。成長投資を進めながら、配当や自己株式取得も行える財務余力は、投資家にとって重要な評価材料です。
弱み・リスク
マブチモーターの最大のリスクは、自動車電装機器向けへの依存です。売上の大きな部分が自動車向けであるため、世界の自動車生産台数、顧客の車種構成、完成車メーカーの在庫調整、EVシフトの速度に影響されます。2026年は世界の自動車生産台数が伸び悩む見通しもあり、数量成長だけに頼るのは難しくなっています。
第二のリスクは、価格競争です。小型モーターは部品としてコスト要求が厳しい製品です。中国やアジアの競合メーカーも多く、顧客は価格比較を行います。マブチモーターは品質と安定供給で差別化していますが、標準品・汎用品では価格競争に巻き込まれやすくなります。
第三のリスクは、原材料費です。銅、鋼材、磁石、樹脂、電子部品の価格が上昇すると、モーターの原価が上がります。2026年12月期予想でも、市況品の上昇が営業利益を押し下げる要因として見込まれています。売価・プロダクトミックスの改善で吸収できるかが重要です。
第四のリスクは、成長投資による費用増です。マブチモーターは研究開発、人材、IT基盤、グループ経営基盤の強化に投資しています。M&Aでグループ化した会社の販管費も増えます。将来の成長には必要ですが、短期的には利益を圧迫します。投資が新規受注や高収益製品につながらなければ、営業利益率は伸び悩みます。
第五のリスクは、技術転換です。ブラシ付きDCモーターだけではなく、ブラシレスモーター、ステッピングモーター、ギア付きモーター、ユニット化、制御との一体化が求められています。マブチモーターはこれらを強化していますが、専業メーカーや制御技術に強い企業との競争もあります。モーター単体からシステム部品へ移れるかが、中長期の課題です。
数字で見るマブチモーター
マブチモーターを見るときは、売上高、営業利益率、用途別売上、販売数量、平均単価、営業キャッシュフロー、株主還元を確認する必要があります。
2025年12月期の連結売上高は2,004億円、営業利益は約255億円、経常利益は351億円、親会社株主に帰属する当期純利益は263億円でした。売上高は2,000億円を超え、営業利益も前期から増加しています。営業利益率は12%台で、電子部品メーカーとして比較的高い水準です。
用途別では、自動車電装機器用が売上の大半を占めます。パワーウインドウ用は旧世代製品の生産・販売終了で減少した一方、バルブ、ミラー、ドアロック用などが増加しました。ライフ・インダストリー機器市場では、健康・医療用が堅調に推移し、M&Aでグループ化した会社の寄与もあり、売上高は458億円となりました。
2026年12月期の会社予想では、売上高2,130億円、営業利益260億円、営業利益率12.2%、経常利益292億円、親会社株主に帰属する当期純利益215億円が見込まれています。売上と営業利益は増える一方、為替差益を見込まないことなどから、経常利益と純利益は減少する予想です。
また、2030年に向けた経営計画では、売上高3,000億円、営業利益率15%以上、ROIC12%以上、ROE10%以上を目標に掲げています。現在の売上高2,000億円台前半から3,000億円へ伸ばすには、自動車電装だけでなく、医療、モビリティ、マシーナリーの成長が必要です。
投資家が確認したい指標は、次の通りです。
自動車電装機器用の売上が数量ではなく単価・ミックスで伸びているか
パワーシート、バルブ、ファン、ポンプなど新用途が拡大しているか
健康・医療用、産業機器用、ロボット関連がライフ・インダストリー機器市場を押し上げているか
営業利益率が12%台から15%以上へ改善する道筋があるか
原材料費上昇を売価・プロダクトミックス改善で吸収できているか
M&Aで加わった会社が売上だけでなく利益に貢献しているか
営業キャッシュフローとフリーキャッシュフローが株主還元を支えられるか
配当と自己株式取得が無理のない水準か
就活生の場合は、売上高だけでなく、用途別にどの市場へモーターを供給しているかを見ると、会社の実態が分かりやすくなります。マブチモーターは単一製品に見えて、顧客産業は自動車、医療、産業機器、家電、理美容、ロボットまで広がっています。
今後の注目ポイント
今後のマブチモーターで最も注目したいのは、車載電装の中身がどう変わるかです。世界の自動車生産台数が大きく伸びなくても、1台あたりの小型モーター搭載数や単価が上がれば、売上は伸びます。パワーシート、バルブ、ファン・モーター・ユニット、電動補機などの高付加価値用途をどれだけ増やせるかが重要です。
次に、ライフ・インダストリー機器の成長です。健康・医療用は安定需要が見込まれ、マシーナリーやモビリティ用途も成長領域です。M&Aで加わった会社の技術を活かし、ブラシレスモーター、ステッピングモーター、ギアユニット、制御技術を組み合わせられるかが注目されます。
第三に、ヒューマノイドロボットや産業ロボット関連です。ロボットは多くの関節や駆動部を持つため、モーター需要が大きい分野です。ただし、ロボット市場は期待が先行しやすく、実際に量産市場としてどの程度立ち上がるかは慎重に見る必要があります。マブチモーターがどの部分に入り、どの程度の単価と数量を取れるかが重要です。
第四に、M&Aの成果です。マブチオーケン、マブチマイクロテック、マブチモーターNPMなどのグループ化により、製品領域は広がっています。しかし、M&Aは買収して終わりではありません。技術交流、共同開発、販売網の共有、量産移管、収益改善が進んで初めて企業価値に結びつきます。
第五に、株主還元と資本効率です。マブチモーターは、2025年12月期に年間配当106円、2026年12月期は株式分割後で年間56円を予想しています。また、自己株式取得も積極的に行う方針です。投資家にとっては魅力ですが、長期的には還元だけでなく、ROE10%以上、ROIC12%以上を実現できるかが重要になります。
投資対象として
投資対象としてのマブチモーターは、高い財務健全性と安定した小型モーター需要を持ちながら、車載・医療・産業機器への成長転換を進める会社です。営業利益率は12%台で、2030年に15%以上を目指しています。自動車電装機器用の基盤があり、健康・医療、マシーナリー、モビリティ、ロボット関連へ広がる可能性があります。
魅力は、小型モーターという製品の汎用性です。動く機器がある限り、モーターは必要です。自動車、医療、産業機器、家電、理美容、ロボットなど、用途を広げやすい部品です。また、グローバル生産体制と標準化された量産力があり、品質とコストを両立してきた実績があります。
一方で、投資家は成長期待だけでなく、リスクも見るべきです。自動車電装向けの比率が高いため、自動車生産台数や顧客の採用動向に左右されます。小型モーターは競争が激しく、原材料費上昇や価格競争もあります。成長投資やM&Aによる費用増が利益を圧迫する可能性もあります。
PERやPBRを見るときは、単純な配当利回りや自己株式取得だけではなく、営業利益率、ROIC、ROE、製品ミックスを確認することが重要です。配当や自社株買いは魅力ですが、長期的な企業価値は、モーター単体から高付加価値ユニット、医療・産業機器、ロボット関連へ進めるかで決まります。
就活生にとっては、一つの技術を深く追求できる会社です。モーターは小さな部品ですが、機械、電気、磁気、材料、制御、生産技術、品質保証が詰まっています。完成品メーカーのような派手さは少ないものの、世界中の製品を動かす部品に関われる点が魅力です。海外生産比率が高く、グローバルに働く機会もあります。
まとめ
マブチモーターは、1946年の関西理科研究所を源流に持ち、1954年に現在の前身会社が設立された小型モーター専業メーカーです。玩具や家電向けの小型モーターから始まり、現在では自動車電装、医療機器、産業機器、ロボット関連へ用途を広げています。
同社の強みは、小型直流モーターへの集中、標準化と量産力、海外生産体制、車載電装での実績、財務健全性にあります。2025年12月期には売上高2,004億円、営業利益約255億円となり、営業利益率は12%台でした。2026年12月期は売上高2,130億円、営業利益260億円を見込み、2030年には売上高3,000億円、営業利益率15%以上を目指しています。
一方で、課題も明確です。自動車電装機器向けへの依存、価格競争、原材料費、為替、成長投資による販管費増、M&Aの統合リスクがあります。車載の数量成長だけに頼るのではなく、パワーシート、バルブ、ファン、ポンプ、医療、マシーナリー、ロボットなど高付加価値用途を伸ばせるかが重要です。
マブチモーターの企業研究では、「小型モーターの会社」という表面的な理解で終わらせず、どの機器のどの動きを支え、どの用途が利益を生み、どの市場へ広がろうとしているのかを見ることが大切です。小さなモーターは、車を快適にし、医療機器を動かし、産業機械を自動化し、ロボットに動きを与えます。その小さな動きを世界中に供給する会社として、マブチモーターは電子部品業界の中でも独自の位置にいる企業です。