ブラザー工業を一言でいうと
ブラザー工業は、プリンター・複合機、ラベルプリンター、産業用印刷機、工作機械、工業用ミシン、家庭用ミシン、ギアモータまで手がける、名古屋発のグローバル機器メーカーです。
「ブラザー」と聞くと、家庭用プリンターやミシンを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、現在のブラザー工業を企業研究や株式分析の対象として見るなら、単なる家庭用プリンターの会社でも、ミシンの会社でもありません。最大の収益源はプリンティング・アンド・ソリューションズ事業であり、そこにラベリング、産業用印刷、工作機械、工業用ミシン、減速機・歯車、家庭用ミシンが重なる、かなり複合的な事業構造を持っています。
同じ電機・電子部品業界でも、アルプスアルパインがスイッチや車載HMIを扱い、マブチモーターが小型モーターで機器の動きを作り、日本セラミックが赤外線・超音波・電流センサで状態を検知する会社だとすれば、ブラザー工業はそれらの部品を使って、完成品に近い業務用・民生用機器を作る会社です。電子部品単体ではなく、プリンター、ラベル機器、工作機械、ミシンという「使う人の現場に置かれる機械」を作っています。
ブラザー工業の特徴は、売り切りの機械販売だけでなく、消耗品やサービスによる継続収益を持つことです。プリンターではインクやトナー、ラベルプリンターではテープやラベル、産業用印刷ではインクや消耗品が収益を支えます。機械本体を販売し、その後も顧客の使用量に応じて消耗品・保守・サービス収益が生まれる構造です。
そのため、ブラザー工業を理解するには、「何を売っているか」だけでなく、「一度導入された後にどのように利益が続くか」を見ることが重要です。プリンター、ラベリング、産業用印刷、工作機械、ミシンでは、市場の性質も利益の出方も大きく違います。
なぜ今ブラザー工業を見るのか
ブラザー工業を今見る理由は、オフィスの印刷需要が変化する一方で、ラベル、産業用印刷、工作機械、株主還元という別の見どころが強まっているからです。
紙への印刷は、長期的にはデジタル化の影響を受けます。企業のペーパーレス化、電子帳票、クラウド共有が進めば、オフィスプリンターの印刷枚数は伸びにくくなります。これはプリンター事業を持つ会社にとって大きな構造変化です。しかし、ブラザー工業の場合、単純に「紙が減るから厳しい」とは言い切れません。中小オフィス、在宅勤務、店舗、医療、物流、倉庫、製造現場では、まだ印刷やラベル発行の需要が残ります。特にラベルは、商品管理、物流、在庫管理、医療、食品表示、EC配送に不可欠です。
また、ブラザー工業はプリンター本体だけでなく、消耗品による継続収益を持っています。2026年3月期のプリンティング・アンド・ソリューションズ事業では、通信・プリンティング機器とラベリングの本体・消耗品が堅調に推移しました。価格対応の効果もあり、米国関税負担や販促費増加を吸収しながら事業セグメント利益を増やしています。
もう一つの注目点は、マシナリー事業です。ブラザー工業は「SPEEDIO」などの小型工作機械を展開しており、自動車部品や一般機械向けの設備投資需要を取り込んでいます。2026年3月期は、中国・アジアを中心に産業機器の需要が拡大し、マシナリー事業の営業利益が大きく伸びました。プリンターだけでなく、製造業の設備投資にも関わる会社である点は見落とせません。
2026年3月期のブラザー工業は、売上収益8,934億円、営業利益778億円、親会社所有者に帰属する当期利益676億円でした。売上収益と当期利益は過去最高水準となり、2027年3月期も売上収益9,100億円、営業利益850億円、親会社所有者に帰属する当期利益720億円を見込んでいます。一方で、米国関税、欧州や中国の市況、産業用プリンターの競争悪化、為替変動などのリスクもあります。
つまり、ブラザー工業は、成熟するプリンター事業と、成長余地のあるラベル・産業用印刷・工作機械・株主還元が混在する会社です。どの事業が利益を稼ぎ、どの事業が構造改革や成長投資を必要としているかを分けて見る必要があります。
成り立ち
ブラザー工業の歴史は、1908年に安井兼吉氏が名古屋で始めたミシン修理業にさかのぼります。現在ではプリンターや工作機械の会社という印象が強いかもしれませんが、原点はミシンです。ミシンを修理し、国産ミシンを作るところから、ブラザーのものづくりは始まりました。
1928年には麦わら帽子製造用環縫ミシンを製造し、1932年には家庭用ミシンの国産化に成功しました。戦後はミシン事業を拡大し、海外市場へ進出します。ブラザーのブランドが海外で広がった背景には、家庭用・工業用ミシンの輸出がありました。
その後、ブラザーはタイプライター、編機、ファクス、プリンター、複合機、ラベルライター、工作機械へと事業を広げていきます。ここで重要なのは、同社の多角化が完全にバラバラではないことです。ミシンで培った精密機構、送り機構、モーター制御、量産技術、海外販売網が、タイプライターやプリンター、ラベル機器、工作機械へつながっていきました。
ブラザー工業の歴史を一言でいえば、「ミシンの機構技術から、印刷・情報機器・産業機械へ広がった会社」です。紙を送る、針を動かす、部材を正確に位置決めする、インクを制御する、刃物を動かす。製品は違っても、根底には小型で精密な機械を安定して動かす技術があります。
また、同社は早くから海外市場を重視してきました。現在でも売上の多くは海外で生まれています。米州、欧州、アジア、日本に広がる販売・サービス網は、プリンター、ラベル、ミシン、工作機械を世界で売るうえで大きな基盤です。
事業内容
ブラザー工業の事業は、プリンティング・アンド・ソリューションズ、インダストリアル・プリンティング、マシナリー、ニッセイ、パーソナル・アンド・ホーム、その他に分かれます。以前はネットワーク・アンド・コンテンツ事業もありましたが、2026年3月期の途中から非継続事業に分類されています。
最大の柱は、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業です。ここでは、レーザー複合機、レーザープリンター、インクジェット複合機、スキャナー、ラベルプリンター、ラベルライターなどを扱います。中小オフィス、在宅勤務、店舗、物流、医療、工場、家庭などが主な顧客です。2026年3月期の売上収益は5,705億円、事業セグメント利益は664億円でした。全社の利益を支える中核事業です。
インダストリアル・プリンティング事業では、ドミノのコーディング・マーキング機器、デジタル印刷機、ガーメントプリンターなどを扱います。食品、飲料、医薬品、工業製品の包装には、製造日、賞味期限、ロット番号、バーコードなどの印字が必要です。ドミノはこの産業用印字領域で重要な事業です。一方、産業用プリンターは欧米で競争環境が悪化し、2026年3月期は営業損失となりました。
マシナリー事業では、工作機械と工業用ミシンを扱います。工作機械では小型マシニングセンタ「SPEEDIO」が代表的です。自動車部品、一般機械、電子部品、医療機器などの加工現場で使われます。工業用ミシンはアパレルや縫製工場向けです。2026年3月期は産業機器が中国・アジアを中心に伸び、マシナリー事業の売上収益は829億円、営業利益は66億円まで拡大しました。
ニッセイ事業では、ギアモータ、高剛性減速機、歯車を扱います。製造装置、搬送装置、食品機械、物流設備などで使われる機械部品です。買収によってグループに加わった事業であり、ブラザーの産業用領域を補完しています。
パーソナル・アンド・ホーム事業では、家庭用ミシン、カッティングマシンなどを扱います。ブラザーの原点に近い事業です。家庭用ミシンは景気や趣味需要の影響を受けますが、ブランド力とグローバル販売網を持っています。
収益構造
ブラザー工業の収益構造で最も重要なのは、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業の消耗品収益です。
プリンターや複合機は、本体を販売した後にインク、トナー、ドラム、ラベルテープなどの消耗品需要が発生します。これにより、本体販売だけでなく、稼働台数と印刷量に応じた継続収益が生まれます。ブラザー工業のP&S事業が高い事業セグメント利益を出しているのは、この本体・消耗品の組み合わせがあるからです。
2026年3月期のP&S事業は、売上収益5,705億円、事業セグメント利益664億円でした。通信・プリンティング機器は4,983億円、ラベリングは722億円です。レーザー複合機・プリンターやインクジェット複合機の販売が伸び、消耗品は価格対応の効果もあり堅調でした。ここがブラザー工業の利益の中心です。
インダストリアル・プリンティング事業では、ドミノの消耗品販売が重要です。食品や医薬品の包装印字では、インクや溶剤などの消耗品が継続的に必要になります。機器本体の販売が軟調でも、設置済み機器の稼働が続けば消耗品収益が発生します。ただし、2026年3月期は産業用プリンターの減収、販管費増、米国関税負担、一部固定資産の減損により営業赤字となりました。
マシナリー事業は、設備投資に連動する事業です。工作機械は顧客の工場投資が増える局面で伸びますが、景気後退や設備投資抑制が起きれば落ち込みます。2026年3月期は中国・アジアの自動車・一般機械市場向け設備投資が拡大し、産業機器が大幅増収となりました。ここは成長余地がある一方、市況敏感な事業です。
パーソナル・アンド・ホーム事業は、家庭用ミシンやカッティングマシンの販売が中心です。趣味・手芸・家庭用需要に支えられますが、高級機の新製品効果や地域別の消費動向に左右されます。2026年3月期は売上は増えましたが、前期の高級機新製品効果との比較で減益となりました。
全社では、営業利益率は8%台です。プリンターの消耗品収益が高収益を支える一方、産業用プリンターや工業用ミシンなどには市況・競争・関税リスクがあります。ブラザー工業を見るときは、P&Sの安定収益と、産業用領域の成長・採算を分けて見る必要があります。
事業内容の特徴
ブラザー工業の事業の特徴は、機械本体、消耗品、サービス、グローバル販売網が組み合わさっていることです。
プリンター事業では、製品本体を販売して終わりではありません。インクやトナー、ラベルテープ、保守、サポートが継続的に発生します。プリンター本体の価格競争が厳しくても、稼働台数を積み上げ、顧客が継続的に消耗品を使えば、利益が安定しやすくなります。この構造は、ブラザー工業を単なる家電メーカーではなく、継続収益型の機器メーカーとして見る理由になります。
ラベリング事業は、紙の印刷需要とは違う性質を持ちます。ラベルは、物流、倉庫、医療、食品、店舗、製造現場で使われます。バーコード、配送ラベル、検体ラベル、価格表示、棚札、部品管理ラベルなど、業務の現場ではラベルがなくなりにくいです。ECや在庫管理、トレーサビリティが進むほど、ラベル発行の重要性はむしろ高まります。
インダストリアル・プリンティングでは、包装への印字が重要です。食品・医薬品・工業製品では、製造日、賞味期限、ロット番号などを正しく印字する必要があります。これは安全性や規制対応に関わるため、単なる印刷ではなく、製造ラインの一部です。ドミノのような事業は、工場の生産ラインに入り込むため、消耗品と保守の収益も期待できます。
マシナリー事業では、ブラザーの小型・高速・省スペースの工作機械が特徴です。大型工作機械ではなく、小物部品を高効率に加工する機械に強みがあります。自動車部品、電子部品、医療機器など、小型部品の加工需要がある分野と相性があります。
就活生の視点では、ブラザー工業は「完成品メーカー」と「産業機器メーカー」の両方の性格を持ちます。プリンターやミシンのようにユーザーに近い製品もあれば、工作機械や産業用印字機のように工場の中で使われる製品もあります。機械、電気電子、ソフトウェア、インク・材料、サービス、海外営業まで、幅広い職種があります。
競合他社との違い
ブラザー工業の競合は、事業ごとに大きく異なります。
プリンター・複合機では、キヤノン、エプソン、リコー、HP、富士フイルムビジネスイノベーション、京セラなどが競合します。キヤノンやエプソンは家庭用・オフィス用で強く、リコーや富士フイルムは大企業向け複合機やオフィスソリューションに強みがあります。ブラザー工業は、SOHO、中小オフィス、在宅勤務、ラベル、低価格帯から中価格帯の実用機で存在感があります。大企業の大型複合機よりも、コンパクトで使いやすい機器を世界中に広げてきた点が特徴です。
ラベリングでは、Zebra Technologies、DYMO、カシオ、キングジム、Epson系製品などが比較対象になります。ブラザーは「P-touch」などで家庭・オフィス・業務用のラベルプリンターを展開し、消耗品収益を持っています。物流や医療、製造現場でラベル需要が続くことは、ブラザーのプリンター事業の中でも重要な差別化要因です。
インダストリアル・プリンティングでは、ドミノを通じてVideojet、Markem-Imaje、Linxなどと競合します。包装へのコーディング・マーキングは、食品・飲料・医薬品・工業製品の生産ラインに深く入り込む事業です。ドミノは世界的なブランドを持つ一方、競争環境や設備投資需要の変動には注意が必要です。
工作機械では、ファナック、DMG森精機、オークマ、牧野フライス、ヤマザキマザック、ツガミなどが比較対象になります。ブラザーは大型工作機械ではなく、小型マシニングセンタのSPEEDIOで、省スペース・高速加工・生産性を重視する領域に強みを持ちます。大量生産の現場で、小物部品を効率よく加工する需要に合っています。
ミシンでは、JUKI、ジャノメ、ペガサスミシン、ヤマトミシンなどが競合します。ブラザーは家庭用ミシンと工業用ミシンの両方を持ちますが、現在の全社利益の中心はプリンターです。ミシンは同社の原点であり、ブランドを支える事業でもあります。
事業の現代での潮流
ブラザー工業を取り巻く第一の潮流は、オフィス印刷需要の変化です。ペーパーレス化により、印刷枚数は長期的に伸びにくくなっています。一方で、中小オフィス、店舗、在宅勤務、医療、物流では、コンパクトで扱いやすいプリンターや複合機の需要が残ります。ブラザーは、この実用機市場で本体と消耗品を組み合わせて収益を作っています。
第二の潮流は、ラベル需要の拡大です。EC、物流、在庫管理、トレーサビリティ、医療検体管理、食品表示ではラベルが不可欠です。デジタル化が進んでも、現実の商品や荷物にはラベルが必要です。むしろ、データ管理が進むほど、バーコードやQRコードを印字するラベルの役割は高まります。
第三の潮流は、産業用印字の高度化です。食品・医薬品・工業製品の生産ラインでは、製造番号、期限、ロット、トレーサビリティ情報の印字が重要です。規制対応や品質保証のため、印字ミスを減らし、生産ラインと連携する機器が求められます。ドミノ事業は、この製造現場のデータ管理と関わります。
第四の潮流は、製造業の設備投資と省人化です。マシナリー事業の工作機械は、自動車や一般機械向けの設備投資に左右されます。労働力不足が進むと、高速・省スペース・自動化しやすい工作機械への需要が高まります。一方で、設備投資は景気や中国市場の影響を受けやすく、波が大きい事業です。
第五の潮流は、米国関税と地政学リスクです。2026年3月期のブラザー工業は、米国関税負担の増加に対して価格対応や経費コントロールで影響を吸収しました。しかし、関税政策やサプライチェーンの変化は今後もリスクです。海外売上比率が高い会社であるため、為替、関税、物流、地域別需要を常に見る必要があります。
強み
ブラザー工業の強みは、第一にプリンター・複合機と消耗品の継続収益です。P&S事業は売上と利益の中心であり、レーザー、インクジェット、ラベリングを組み合わせています。消耗品収益があるため、単なる本体販売より利益が安定しやすい構造です。
第二の強みは、ラベリングの存在です。紙の印刷需要が伸びにくくても、ラベルは物流、医療、店舗、製造現場に必要です。ラベルプリンターと消耗品を持つことは、ブラザーのプリンター事業の中でも重要な差別化要因です。
第三の強みは、産業用領域への広がりです。ドミノの産業用印字、工作機械、工業用ミシン、ギアモータ・減速機は、製造業の現場に関わる事業です。民生用プリンターだけに依存せず、工場や生産ラインへ入り込む事業を持っている点は強みです。
第四の強みは、グローバル販売網です。ブラザーは海外売上比率が高く、米州、欧州、アジアに広い販売・サービス網を持っています。プリンターやミシンのような民生・小規模事業者向け製品でも、工作機械や産業用印字のようなBtoB製品でも、現地販売とサービス体制が重要です。
第五の強みは、財務の安定性と株主還元です。2026年3月期末の総資産は1兆188億円、株主資本比率は74.9%、ネットキャッシュは1,967億円でした。中期戦略「CS B2027」では、1株あたり年間100円の配当を下限とし、配当性向40%を目安とする方針、さらに3年間で合計600億円の自己株式取得を予定しています。財務の余力は、成長投資と株主還元の両方を支える材料です。
弱み・リスク
ブラザー工業の最大のリスクは、プリンター市場の成熟です。ペーパーレス化が進む中で、オフィス印刷枚数が大きく伸びるとは考えにくいです。プリンター本体の販売台数や印刷枚数が減れば、消耗品収益にも影響します。ブラザーは中小オフィスやラベリングで強みを持ちますが、構造的な印刷需要減少は無視できません。
第二のリスクは、米国関税です。2026年3月期は価格対応や経費コントロールで影響を吸収しましたが、関税政策が変われば、米国向けの価格、販売数量、利益率に影響します。ブラザーは米国市場が重要であり、関税・物流・為替の影響を受けやすい会社です。
第三のリスクは、インダストリアル・プリンティング事業の採算です。ドミノの消耗品販売は堅調でしたが、産業用プリンターは欧米で競争環境が悪化し、同事業は営業赤字となりました。産業用領域は成長テーマである一方、競争と固定費が重い事業でもあります。
第四のリスクは、マシナリー事業の市況変動です。2026年3月期は産業機器が大幅に伸びましたが、工作機械は設備投資サイクルに左右されます。中国やアジアの需要が弱まれば、受注と利益が落ちる可能性があります。好調な年の利益をそのまま継続すると考えるのは危険です。
第五のリスクは、為替と地域別需要です。ブラザーは海外売上比率が高く、ドルやユーロの動きが業績に影響します。また、欧州・中国ではP&Sの市況が軟調、欧米では産業用プリンターの競争が厳しいなど、地域ごとに状況が異なります。全社売上だけではなく、地域と事業の組み合わせを見る必要があります。
数字で見るブラザー工業
ブラザー工業を見るときは、全社売上収益、営業利益、P&S事業の利益、消耗品の動向、産業用領域の採算、キャッシュフロー、株主還元を確認する必要があります。
2026年3月期の連結売上収益は8,934億円、事業セグメント利益は836億円、営業利益は778億円、親会社所有者に帰属する当期利益は676億円でした。売上収益は前期比5.3%増、営業利益は15.0%増、当期利益は23.5%増です。営業利益率は約8.7%でした。
セグメント別では、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業が売上収益5,705億円、事業セグメント利益664億円でした。通信・プリンティング機器は4,983億円、ラベリングは722億円です。ここが全社利益の中心です。
インダストリアル・プリンティング事業は、売上収益1,392億円、事業セグメント利益29億円、営業損失16億円でした。ドミノの売上は1,253億円と堅調でしたが、産業用プリンターが大きく減少し、減損や為替差損もあり営業赤字となりました。
マシナリー事業は、売上収益829億円、事業セグメント利益67億円、営業利益66億円でした。産業機器は642億円と大きく伸び、工業用ミシンは186億円でした。ニッセイ事業は売上収益214億円、営業利益10億円、パーソナル・アンド・ホーム事業は売上収益609億円、営業利益59億円でした。
キャッシュフローでは、営業活動によるキャッシュフローが1,110億円の増加、投資活動によるキャッシュフローが429億円の減少、財務活動によるキャッシュフローが546億円の減少でした。設備投資や無形資産投資、配当、自社株買いを行いながら、現金及び現金同等物は1,976億円まで増加しています。
2027年3月期の会社予想では、売上収益9,100億円、事業セグメント利益850億円、営業利益850億円、親会社所有者に帰属する当期利益720億円を見込んでいます。年間配当は100円予想です。
投資家が確認したい指標は、次の通りです。
P&S事業の事業セグメント利益率が維持できるか
消耗品の販売と価格対応が続くか
ラベリングが安定的に伸びているか
インダストリアル・プリンティング事業が営業黒字に戻るか
マシナリー事業の産業機器需要が一過性でないか
米国関税や為替の影響を価格対応で吸収できるか
営業キャッシュフローが配当、自社株買い、成長投資を支えられるか
ネットキャッシュと株主資本比率の高さをどう活用するか
就活生の場合は、ブラザー工業を家庭用プリンターやミシンだけで見ず、P&S、産業用印字、工作機械、減速機、家庭用ミシンという複数の顔を持つ会社として見ると、仕事の幅が理解しやすくなります。
今後の注目ポイント
今後のブラザー工業で最も注目したいのは、P&S事業の継続収益をどこまで維持できるかです。オフィス印刷の長期減少リスクがある中で、レーザー、インクジェット、ラベルプリンター、消耗品を組み合わせ、どれだけ安定した利益を出せるかが重要です。
次に、ラベリングの成長です。物流、医療、食品、小売、製造現場では、ラベル需要が根強く残ります。ECや在庫管理、トレーサビリティが進むほど、ラベルプリンターと消耗品の価値は高まります。ブラザーにとって、ラベリングは成熟する紙印刷を補う重要な領域です。
第三に、インダストリアル・プリンティング事業の採算改善です。ドミノは産業用印字で強い事業ですが、産業用プリンターの競争悪化や減損により、2026年3月期は営業赤字でした。MUTOHホールディングスの連結子会社化も含め、産業用プリンター領域をどう再構築するかが注目です。
第四に、マシナリー事業の成長持続性です。2026年3月期は中国・アジア向け産業機器が大きく伸びました。小型工作機械は、省人化、設備更新、小型部品加工と相性があります。ただし、設備投資サイクルに左右されやすいため、受注動向を確認する必要があります。
第五に、株主還元です。ブラザー工業は、1株あたり年間100円の配当を下限とし、CS B2027期間中に合計600億円の自己株式取得を予定しています。ネットキャッシュと高い株主資本比率を持つため、資本効率改善への期待があります。ただし、還元だけでなく、成長事業への投資と収益改善が伴うかが重要です。
投資対象として
投資対象としてのブラザー工業は、成熟したプリンター事業から安定的なキャッシュを生み、ラベリング、産業用印字、工作機械で成長余地を探る会社です。財務は非常に安定しており、株主還元も明確です。P&S事業の利益力とキャッシュ創出力は大きな魅力です。
一方で、投資家は「プリンターの会社だから安定」と単純に見ない方がよいです。印刷需要の構造変化、米国関税、欧州・中国の市況、産業用プリンターの競争悪化、工作機械の設備投資サイクルは、利益を動かします。特にP&S事業が全社利益の中心であるため、この事業の消耗品販売と価格対応が崩れると、評価は大きく変わります。
PERやPBRを見るときは、純利益だけではなく、営業利益、事業セグメント利益、営業キャッシュフロー、株主還元方針を確認することが重要です。2026年3月期は当期利益が過去最高水準となりましたが、事業譲渡益や非継続事業の税効果調整なども含まれています。本業の稼ぐ力を見るには、P&Sの利益、IPの赤字改善、マシナリーの受注動向を追う必要があります。
就活生にとっては、ブラザー工業は、民生品と産業機器の両方に関われる会社です。プリンター、ラベル、産業用印字、工作機械、ミシン、減速機など、製品の幅が広く、機械、電気、ソフトウェア、材料、インク、サービス、海外営業まで関われます。名古屋発のメーカーでありながら、売上の多くを海外で稼ぐグローバル企業でもあります。
まとめ
ブラザー工業は、1908年のミシン修理業を原点に、家庭用ミシン、工業用ミシン、プリンター、複合機、ラベルプリンター、産業用印字機、工作機械、ギアモータへ広がってきたグローバル機器メーカーです。家庭用プリンターの会社という印象だけでは、現在の事業構造を十分に捉えられません。
同社の強みは、プリンター・複合機と消耗品による継続収益、ラベリングの成長性、ドミノを含む産業用印字、SPEEDIOを中心とする工作機械、グローバル販売網、そして高い財務健全性です。2026年3月期には売上収益8,934億円、営業利益778億円、親会社所有者に帰属する当期利益676億円となりました。
一方で、課題もあります。紙印刷需要の成熟、米国関税、インダストリアル・プリンティング事業の赤字、工作機械の市況変動、為替影響、地域別需要のばらつきには注意が必要です。特にP&S事業が全社利益の大部分を支えているため、その安定性と変化を見ることが重要です。
ブラザー工業の企業研究では、「プリンター」「ミシン」という身近なイメージで終わらせず、どの機器が本体販売で稼ぎ、どの消耗品が継続収益を生み、どの産業用事業が成長または課題を抱えているのかを見ることが大切です。プリンターの消耗品収益を軸に、ラベル、産業用印字、工作機械へ広がる会社として、今後は成熟市場の守りと産業用領域の成長を両立できるかが企業価値を左右していくでしょう。