野村総合研究所を一言でいうと
野村総合研究所は、シンクタンク、経営コンサルティング、金融IT、産業IT、IT基盤、サイバーセキュリティを一体で提供する、国内有数の高収益ITサービス企業です。一般には「NRI」「野村グループ系のIT会社」「コンサルとシステムの会社」という印象が強いかもしれません。しかし、企業研究として見るなら、単なるSIerでも、単なるコンサル会社でもありません。
野村総合研究所の特徴は、経営課題の発見から、業務改革、システム設計、開発、運用、共同利用型サービスの提供までを一気通貫で行うことです。特に金融ITでは、証券、保険、銀行、資産運用などの分野で深い業務知識を持ち、証券会社向けのTHE STARやI-STARのような共同利用型サービスを提供しています。これは、顧客ごとに毎回ゼロからシステムを作るだけでなく、業界共通の業務基盤を複数社で利用してもらうモデルです。
野村総合研究所 強みの中心は、二つあります。ひとつは、シンクタンク・コンサルティング由来の上流力です。経営環境を分析し、顧客の課題を定義し、変革構想を描く力があります。もうひとつは、金融ITを中心とした大規模システムの構築・運用力です。単に提案書を書く会社ではなく、社会インフラに近いシステムを長く安定稼働させる会社です。
2026年3月期の売上収益は8,147億円でした。IFRS上の営業利益は海外事業の減損損失等の影響で582億円となりましたが、減損損失等を除く参考値では営業利益1,566億円、営業利益率19.2%です。国内事業に限れば売上収益7,059億円、営業利益1,600億円、営業利益率22.7%と非常に高い収益性を示しています。つまり、足元では海外事業の再構築という課題がある一方、国内の金融IT、産業IT、IT基盤、コンサルティングは強い会社です。
なぜ今野村総合研究所を見るのか
今、野村総合研究所を見る理由は、DXの次の段階として、AIを前提にした企業変革、すなわちAXへの移行を打ち出しているからです。
これまで多くの企業は、紙の業務をデジタル化する、古いシステムを刷新する、クラウドを導入する、データを可視化する、といったDXに取り組んできました。しかし、AIが本格的に業務へ入る時代になると、単なるシステム更新だけでは足りません。業務プロセスそのものをAI前提に変える必要があります。営業、審査、経理、人事、カスタマーサポート、開発、リスク管理、セキュリティまで、AIがどこに入るかを設計し直す必要があります。
野村総合研究所は、この変化を「AI Transformation」、つまりAXとして捉えています。中期経営計画2026-2028では、AIによるビジネス変革、デジタルセキュリティサービスの拡充、社会共創サービスの拡大を重要テーマに掲げています。2028年度には売上収益9,500億円、営業利益2,000億円、営業利益率21.1%を目標としています。
この目標を見るうえで重要なのは、NRIがAIを単なる便利ツールとして見ていないことです。AIを使って社内の開発生産性を上げるだけでなく、顧客企業の経営、業務、システムを一体で変えることを狙っています。NRIは、顧客の業務とシステムを長く見てきた会社です。金融機関や大企業の基幹システムを理解しているからこそ、どこにAIを組み込めば本当に価値が出るかを提案しやすい立場にあります。
一方で、足元には課題もあります。2026年3月期には、海外事業で大きな減損損失等を計上しました。国内事業は堅調でしたが、海外事業では北米や豪州の一部事業で、顧客の投資控え、契約非更改、人材派遣型案件の中止・延期、買収子会社間の融合不足などの課題が表面化しました。今後は、海外を無理に規模拡大するのではなく、AI時代に安定成長が期待できる事業領域へ絞り込む方針です。
つまり、今の野村総合研究所は、国内の高収益事業を基盤に、AI、セキュリティ、社会共創サービスへ成長領域を広げる一方、海外事業の再構築を進める段階にあります。就活生にとっては、コンサルティング、金融IT、産業IT、AI、セキュリティ、社会インフラに関われる会社です。個人投資家にとっては、高収益な国内事業と、海外再建・AI投資の実行力を分けて見るべき企業です。
成り立ち
野村総合研究所の歴史は、1965年に株式会社野村総合研究所が設立されたことから始まります。翌1966年には、株式会社野村電子計算センターが設立され、のちに野村コンピュータシステムへ社名変更しました。この二つの流れが、現在のNRIを理解するうえで非常に重要です。
ひとつは、シンクタンクとしての流れです。調査、研究、政策提言、経済分析、産業分析を行い、企業や社会の未来を考える機能です。もうひとつは、野村證券をはじめとする金融業務の電算化を担うITシステムの流れです。証券取引、口座管理、決済、バックオフィス処理を支えるシステムを構築・運用する機能です。
1974年には、証券業向け共同利用型システムであるSTARが稼働しました。これは現在のNRIの金融ITビジネスの原点に近い重要な出来事です。1987年には、ホールセール向け共同利用型システムI-STARが稼働しました。そして1988年に、旧野村総合研究所と野村コンピュータシステムが合併し、現在につながる株式会社野村総合研究所が誕生しました。
この合併によって、NRIには「構想する力」と「実装する力」が同居することになりました。シンクタンクが社会や産業の変化を読み、コンサルティングが企業の課題を定義し、IT部門が実際にシステムを作り、運用する。これは、普通のコンサル会社や普通のSIerとは異なる成り立ちです。
2000年代以降は、NRIセキュアテクノロジーズ、だいこう証券ビジネス、日本証券テクノロジー、海外子会社などを通じて、セキュリティ、BPO、金融IT、グローバルITサービスを拡張してきました。現在では、コンサルティング、金融ITソリューション、産業ITソリューション、IT基盤サービスという四つの事業領域を持ちます。
野村総合研究所の歴史は、野村證券のためのシステム会社にとどまる歴史ではありません。証券・金融の業務知識を起点に、共同利用型サービスを育て、産業向けIT、社会インフラ、セキュリティ、AI変革へ広げてきた歴史です。
事業内容
野村総合研究所の事業は、コンサルティング、金融ITソリューション、産業ITソリューション、IT基盤サービスに分けて見ると理解しやすくなります。
コンサルティング事業では、経営戦略、業務改革、デジタル戦略、政策提言、AI活用、レガシーシステムのモダナイゼーションなどを扱います。NRIのコンサルティングは、単に戦略を描くだけではありません。後工程にシステム実装や運用があるため、机上の構想ではなく、実装可能な変革を考える必要があります。2026年3月期は、AIコンサルティング案件やレガシー・モダナイゼーション案件が活況で、増収増益となりました。
金融ITソリューション事業は、NRI最大の事業です。証券、保険、銀行、資産運用、その他金融向けに、基幹システム、バックオフィス、リスク管理、決済、営業支援、制度対応、共同利用型サービスを提供します。THE STAR、I-STAR、T-STAR、BESTWAY、I-STAR/LCなどの金融ビジネスプラットフォームは、NRIの特徴的な収益源です。金融機関が個別にシステムを持つよりも、NRIの共同利用型サービスを使うことで、制度対応や運用コストを分担できます。
産業ITソリューション事業では、流通、製造、サービス、商社、運輸、不動産などの業界向けに、基幹システム、業務改革、クラウド、データ活用、顧客接点改革、サプライチェーン改善などを提供します。金融ITほど共同利用型サービスの比率が高いわけではありませんが、大企業の業務改革とシステム刷新を担う重要な領域です。2026年3月期は、国内では製造業や運輸業などの新規獲得案件が寄与しました。一方で、海外事業の減損損失等により、セグメント全体では大きな営業損失となりました。
IT基盤サービス事業では、データセンター、クラウド、ネットワーク、セキュリティ、デジタルワークプレイス、運用基盤、共通ITインフラを提供します。NRIグループ内向けの基盤だけでなく、外部顧客向けにも提供しています。システムを作るだけでなく、長期的に安定稼働させるための基盤を持つことが、NRIの強みです。
この四つの事業を合わせると、NRIは「考える」「作る」「動かす」「守る」を一体で行う会社だと分かります。コンサルティングだけなら提案で終わります。SIだけなら開発で終わります。しかしNRIは、経営課題の発見から、システム実装、運用、共同利用型サービス化までつなげることを得意としています。
収益構造
野村総合研究所の収益構造は、金融ITを中心に、コンサルティング、産業IT、IT基盤が積み上がる形です。さらに、共同利用型サービスや運用サービスによる継続性の高い収益が大きな特徴です。
2026年3月期の売上収益は8,147億円でした。IFRS上の営業利益は582億円、営業利益率は7.2%でした。ただし、この数字には海外事業の減損損失等が含まれています。減損損失等を除く参考値では、営業利益は1,566億円、営業利益率は19.2%です。NRIを見るときは、会計上の実績と、本業の収益力を見るための参考値を分けて理解する必要があります。
セグメント別では、金融ITソリューションの売上収益が4,051億円、営業利益が742億円でした。外部顧客向け売上では、証券業1,553億円、保険業873億円、銀行業814億円、その他金融業等756億円です。金融ITは、売上規模と利益の両面でNRI最大の柱です。証券、保険、銀行、資産運用など、金融機関の基幹業務に深く入り込んでいることが分かります。
コンサルティングの売上収益は687億円、営業利益は192億円、営業利益率は28.0%でした。売上規模は金融ITより小さいですが、利益率は高い事業です。AIコンサルティングやレガシー・モダナイゼーション案件の増加が追い風です。NRIのコンサルティングは、単体で利益を出すだけでなく、後続のITソリューション案件につながる入口でもあります。
産業ITソリューションの売上収益は2,800億円でした。ただし、営業利益は海外事業の減損損失等の影響でマイナス746億円となりました。国内だけで見ると、売上収益1,919億円、営業利益292億円、営業利益率15.2%です。ここから、国内産業ITは堅調である一方、海外再構築が大きな課題であることが分かります。
IT基盤サービスの売上収益は2,215億円、営業利益は385億円、営業利益率17.4%でした。外部顧客向け売上は770億円で、内部向けも大きい事業です。デジタルワークプレイス事業などが増収増益に寄与しています。NRIは自社グループ内の基盤運用も大きく、IT基盤サービスは全体の安定性を支える役割を持ちます。
事業内容の特徴
野村総合研究所の事業内容の特徴は、単発のシステム開発ではなく、業界インフラに近いサービスを持っていることです。
代表例が金融ITの共同利用型サービスです。証券会社向けのTHE STAR、ホールセール証券向けのI-STAR、投信会社向けのT-STAR、投信窓販向けのBESTWAYなどは、個別企業のためだけのシステムではなく、複数の金融機関が利用するプラットフォームです。これは、顧客ごとに毎回ゼロから受託開発するモデルとは違います。
共同利用型サービスには、強い収益性と顧客粘着性があります。金融制度や市場ルールが変わるたびに、各社が個別対応するのは非効率です。NRIが共通基盤として機能追加や制度対応を行えば、複数の金融機関がメリットを受けます。顧客から見ると、自社だけで開発・運用するよりも効率的です。NRIから見ると、長期継続しやすいストック性のあるビジネスになります。
もう一つの特徴は、上流から下流までの連続性です。NRIはコンサルティング会社として、経営課題や業務改革を考えます。同時に、ITサービス会社として、実際のシステムを構築・運用します。これにより、戦略とシステムの分断が起きにくい。経営戦略だけ描いて実装しない会社でもなく、顧客から言われた通りにシステムを作るだけの会社でもありません。
金融ITにおいては、正確性と安定稼働が特に重要です。証券、銀行、保険、資産運用のシステムは、停止すれば金融市場や顧客取引に影響します。ミスがあれば規制対応や信用問題につながります。NRIは長年、こうした高い信頼性が求められる領域で実績を積んできました。これが、他業界のDXや社会インフラ領域にも活きます。
一方で、NRIの事業は人材集約型でもあります。高い専門性を持つコンサルタント、プロジェクトマネージャー、ITアーキテクト、業務SE、セキュリティ人材が必要です。共同利用型サービスのようなIPは強みですが、それを作り、守り、進化させる人材が競争力の源泉です。
競合他社との違い
野村総合研究所の競合は、オービック、NTTデータグループ、TIS、SCSK、富士通、NEC、日立製作所、アクセンチュア、IBM、SAP、Oracleなどです。ただし、比較する相手によって、NRIの特徴は違って見えます。
オービックとの違いは、ERP特化か、コンサル・金融IT・社会インフラ型かです。オービックはOBIC7を中心に、国内企業の基幹業務ERPを自社開発・直接販売で展開し、非常に高い営業利益率を持ちます。NRIはオービックほどERP製品単体に集中していません。金融IT、産業IT、IT基盤、コンサルティング、共同利用型サービス、社会共創サービスを持ちます。オービックが自社ERPとワンストップ体制で企業基幹業務に強い会社なら、NRIは金融業界の共通基盤とコンサル・SI・運用を組み合わせる会社です。
NTTデータグループとの違いは、規模と収益構造です。NTTデータは、公共、金融、法人、海外まで展開する巨大ITサービス企業です。売上規模やグローバル展開ではNTTデータが圧倒的です。一方、NRIは規模では小さいものの、金融ITの共同利用型サービスとコンサルティングを組み合わせた高収益モデルを持ちます。NTTデータが大規模公共・金融・グローバルSIの巨人なら、NRIは金融ITとコンサルを軸に高付加価値で稼ぐ会社です。
TISとの違いは、決済・金融ITの位置づけです。TISは、クレジットカード、決済、金融、産業向けITで強みを持つ独立系SIerです。NRIも金融ITに強いですが、証券・資産運用・保険・銀行の共同利用型サービスの厚みが特徴です。また、NRIはシンクタンク・コンサルティングの色が強く、企業変革や政策・社会課題への提言も行います。
アクセンチュアとの違いは、グローバルコンサルと国内金融インフラの違いです。アクセンチュアは世界規模で戦略、業務、テクノロジー、アウトソーシングを提供する巨大コンサル企業です。NRIはグローバル規模では及びませんが、日本の金融業務、制度、共同利用型サービス、長期運用に強い。日本企業の業務と金融インフラを深く理解している点が差別化になります。
富士通、NEC、日立との違いは、ハードウェア・インフラ色の違いです。これらの企業は、長年にわたり公共、金融、製造、通信、社会インフラ向けの大規模システムを支えてきました。NRIはメーカー系ではなく、シンクタンク・コンサルティングとITサービスを組み合わせる立ち位置です。特定ハードウェアに縛られないベンダーフリーの提案力を強みとしています。
事業の現代での潮流
野村総合研究所を取り巻く潮流は、DXからAXへの移行、金融業界の制度・システム更新、レガシーモダナイゼーション、サイバーセキュリティ、共同利用型サービス、海外事業の選別です。
第一に、DXからAXへの移行です。企業はこれまで、デジタル化やクラウド化に取り組んできました。しかし今後は、AIを前提に業務そのものを作り替える必要があります。AIエージェント、生成AI、AI駆動開発、AIを組み込んだ基幹システム、AI前提の業務設計が重要になります。NRIは、戦略コンサルティング、業務理解、システム実装、セキュリティを組み合わせて、この領域を成長機会としています。
第二に、金融業界のシステム更新です。証券、銀行、保険、資産運用では、制度改正、顧客接点のデジタル化、コスト削減、セキュリティ、データ活用、レガシーシステム刷新が続きます。NRIの金融ITは、この流れに深く関わります。金融機関はシステムを止められないため、信頼できるパートナーを選ぶ傾向が強く、NRIの実績は大きな武器になります。
第三に、レガシーモダナイゼーションです。多くの企業では、古い基幹システムが残っています。COBOL、メインフレーム、オンプレミス、複雑な個別開発、属人化した運用などが、DXやAI活用の足かせになっています。NRIは、コンサルティングと産業ITの両方で、古いシステムを現代化する案件を取り込んでいます。
第四に、サイバーセキュリティです。AI活用が進むほど、データの取り扱い、認証、アクセス制御、脆弱性、サプライチェーン攻撃、ランサムウェア、ガバナンスが重要になります。NRIは中期計画でデジタルセキュリティサービスの拡充を掲げ、NRIセキュアテクノロジーズを中心に国内2,000名体制の整備を目指しています。
第五に、海外事業の選別です。以前のNRIは海外事業の規模拡大も重視していましたが、2026年3月期の減損損失等を受け、今後は北米・豪州事業を再構築し、AI時代に安定成長が期待できる領域へ絞る方針です。海外成長は重要ですが、単純な買収拡大ではなく、収益性を伴う成長が求められます。
強み
野村総合研究所の第一の強みは、コンサルティングとIT実装が一体であることです。経営課題を理解し、業務改革を設計し、システムに落とし込み、運用まで支える。この一貫性が、単なるコンサル会社や単なる受託開発会社との違いです。
第二の強みは、金融ITの共同利用型サービスです。THE STAR、I-STAR、T-STAR、BESTWAYなどは、金融機関にとって業務インフラに近い存在です。長期利用されやすく、制度改正対応や機能追加を通じて継続収益を生みます。共同利用型サービスは、NRI固有のIPであり、利益率と顧客粘着性を支える重要な資産です。
第三の強みは、顧客基盤の深さです。証券、保険、銀行、資産運用、流通、製造、運輸、サービス業など、大企業の基幹業務に深く入り込んでいます。ITシステムは一度導入されると長期関係になりやすく、追加開発、保守、運用、制度対応、クラウド移行が続きます。
第四の強みは、高い収益性です。減損損失等を除く参考値では、2026年3月期の営業利益率は19.2%、国内事業では22.7%です。コンサルティングの営業利益率は28.0%、金融ITは18.3%、IT基盤サービスは17.4%と、各事業が高い収益性を持っています。
第五の強みは、人材と知的資本です。NRIの事業は、高度な専門人材によって成り立っています。経営コンサルタント、金融業務に詳しいSE、ITアーキテクト、セキュリティ専門家、データサイエンティスト、AI人材が必要です。2026年3月期のNRI本体採用数は708人で、新卒503人、中途205人でした。低い離職率と人材育成力も、長期的な競争力につながります。
弱み・リスク
野村総合研究所の第一のリスクは、海外事業の再構築です。2026年3月期には、海外事業で減損損失等を計上し、IFRS上の営業利益と当期利益を大きく押し下げました。国内事業は好調ですが、海外での買収後統合、顧客集中、契約非更改、投資不足、人材派遣型案件の減少などが課題として表面化しました。海外事業が再び足を引っ張らないかは大きな論点です。
第二のリスクは、金融ITへの依存です。金融ITは強みですが、証券、銀行、保険、資産運用のIT投資動向に左右されます。制度変更やシステム刷新が追い風になる一方、大型案件の端境期や顧客の投資抑制があれば成長が鈍る可能性があります。金融業界の規制や市場環境も影響します。
第三のリスクは、人材制約です。NRIは高付加価値な人材によって収益を生んでいます。AI、セキュリティ、クラウド、金融業務、プロジェクトマネジメントの人材は採用競争が激しい。人材の育成が追いつかなければ、受注機会があっても消化できません。また、外部パートナーを含む開発体制の品質管理も重要です。
第四のリスクは、大規模システム開発のプロジェクトリスクです。金融機関や大企業の基幹システムは、規模が大きく、要求水準が高く、失敗した場合の影響も大きいです。納期遅延、コスト超過、品質問題、障害が起きれば、利益だけでなく信頼にも影響します。高い利益率を維持するには、案件選別とプロジェクト管理が不可欠です。
第五のリスクは、AIによる業界構造変化です。AIはNRIにとって成長機会ですが、同時に脅威でもあります。プログラム作成、テスト、設計支援、問い合わせ対応の一部が自動化されることで、ITサービスの価格構造や競争環境が変わる可能性があります。NRIがAIを自社の生産革新と顧客価値に変えられれば強みになりますが、競合も同じ方向へ動きます。
数字で見る野村総合研究所
野村総合研究所を見るときは、売上収益、営業利益、減損等除く参考値、セグメント別利益、受注残高、国内と海外の差、営業利益率、ROE、配当、自己株式取得を見る必要があります。
2026年3月期の売上収益は8,147億円でした。IFRS上の営業利益は582億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は152億円です。一方、海外事業の減損損失等を除く参考値では、営業利益は1,566億円、営業利益率は19.2%、当期利益は1,098億円です。国内事業では売上収益7,059億円、営業利益1,600億円、営業利益率22.7%でした。ここから、NRIの国内収益力は非常に高い一方、2026年3月期は海外事業の減損が大きく響いたことが分かります。
セグメント別では、コンサルティングの売上収益は687億円、営業利益192億円、営業利益率28.0%です。金融ITソリューションの売上収益は4,051億円、営業利益742億円、営業利益率18.3%です。産業ITソリューションの売上収益は2,800億円ですが、海外減損の影響で営業損失746億円となりました。ただし国内産業ITだけでは売上収益1,919億円、営業利益292億円です。IT基盤サービスは売上収益2,215億円、営業利益385億円、営業利益率17.4%です。
2026年3月末の外部顧客向け受注残高は4,706億円で、前年同期比9.8%増でした。国内の受注残高は4,188億円で10.2%増、海外は517億円で6.7%増です。国内では、コンサルティングが34.3%増、金融ITが9.4%増、産業ITが7.0%増、IT基盤サービスが15.7%増でした。受注残高の増加は、次期以降の売上の見通しを見るうえで重要です。
2027年3月期の会社予想では、売上収益8,500億円、営業利益1,750億円、営業利益率20.6%、親会社の所有者に帰属する当期利益1,190億円を見込んでいます。2026年3月期との比較では、減損損失等を含まない参考値を基準にしています。年間配当は84円を予定し、連結配当性向は40.5%の見通しです。
中期経営計画2028では、2028年度に売上収益9,500億円、営業利益2,000億円、営業利益率21.1%を目標にしています。ROE目標は25%水準へ引き上げられ、配当性向40%を維持しつつ、自己株式取得も機動的に行う方針です。2026年には上限700億円の自己株式取得も発表されています。
今後の注目ポイント
今後の第一の注目ポイントは、AIによるビジネス変革です。NRIは2028年度までの3年間でAI関連に800億円を投資し、AIエージェント、AI HUB、既存システムのAIネイティブ化、AI駆動開発モデルを進める方針です。2028年には新規プロジェクトをすべてAI関連にし、2030年にはすべての売上をAI関連にする構想を掲げています。これが単なるスローガンではなく、売上と利益にどうつながるかが最大の焦点です。
第二の注目ポイントは、デジタルセキュリティです。AI活用が広がるほど、セキュリティ、ガバナンス、リスク管理、データ保護が重要になります。NRIは、デジタルセキュリティサービス売上を2025年度の962億円から2028年度に1,280億円へ伸ばす計画です。NRIセキュアテクノロジーズを中心に、国内2,000名体制を整備する方針も重要です。
第三の注目ポイントは、社会共創サービスです。NRIは、金融ビジネスプラットフォーム、ソーシャルDX、デジタル社会資本に関わる新規サービスを拡大しようとしています。社会共創サービス売上高は、2025年度の1,933億円から2028年度に2,350億円を目指します。金融ITの共同利用型サービスで培った考え方を、より広い社会インフラへ広げられるかが注目点です。
第四の注目ポイントは、海外事業の再建です。2026年3月期の減損損失等により、海外事業の課題は明確になりました。今後は、北米・豪州で規模拡大を追うのではなく、AI時代に安定成長が期待できる事業領域へ絞る方針です。海外の再建が進めば利益成長の余地になりますが、再び減損や不採算が出るようなら評価を下げる要因になります。
第五の注目ポイントは、資本政策です。中期経営計画では、ROE目標を25%水準へ引き上げ、配当性向40%を維持し、自己株式取得を機動的に行う方針です。NRIは高収益でキャッシュを生みやすい会社ですが、AI・セキュリティ・社会共創サービスへの投資も必要です。成長投資と株主還元のバランスが重要になります。
投資対象として
野村総合研究所を投資対象として見る場合、同社は「国内高収益IT企業」であると同時に、「AI時代の社会インフラ型IT企業へ進もうとしている会社」と整理できます。
ポジティブに見るなら、NRIには強い事業基盤があります。金融ITの共同利用型サービスは顧客粘着性が高く、制度対応や機能追加を通じて長期収益を生みます。コンサルティングは高利益率で、産業ITや金融ITの上流案件につながります。IT基盤サービスやセキュリティは、DXとクラウド需要を支えます。国内事業の営業利益率22%台は非常に高い水準です。
また、NRIはAIを自社変革と顧客変革の両方に使おうとしています。AI駆動開発によって生産性が上がれば、同じ人員でより多くの案件をこなせる可能性があります。顧客企業のAX需要を取り込めば、コンサルティングからシステム刷新、運用、セキュリティまで一体で成長できます。
一方で、慎重に見るべき点もあります。2026年3月期のIFRS上の利益は、海外事業の減損損失等で大きく落ち込みました。投資家は、減損を除く本業収益力だけでなく、海外投資の失敗リスクも見なければなりません。また、高収益企業であるため株価評価も高くなりやすく、成長鈍化や利益率低下が見えると株価に影響しやすい会社です。
さらに、AIは競争優位にも脅威にもなります。NRIがAIを使って開発生産性を高めれば強みになりますが、競合企業も同じようにAIを使います。ITサービスの差別化は、単なる開発力から、業務理解、データ、顧客基盤、共同利用型サービス、セキュリティ、社会実装力へ移っていきます。NRIの強みがそこで発揮されるかが重要です。
したがって、野村総合研究所の株価を見るときは、売上収益、営業利益率、減損等除く営業利益、金融ITの成長、産業ITの国内収益、海外再建、受注残高、AI関連投資、デジタルセキュリティ売上、社会共創サービス売上、ROE、配当、自己株式取得を確認する必要があります。投資対象としては、強い国内収益基盤を持つ一方、海外再建とAI時代の成長実行力が評価の鍵になる会社です。
まとめ
野村総合研究所は、1965年設立のシンクタンク機能と、1966年設立の野村電子計算センターを源流とするIT機能が、1988年に合体して現在の姿になった会社です。経営を考える力と、システムを実装・運用する力を併せ持つことが、NRIの出発点です。
野村総合研究所 強みは、コンサルティング、金融IT、産業IT、IT基盤を一体で持ち、特に金融ITではTHE STARやI-STARなどの共同利用型サービスを持つことです。金融機関の業務に深く入り込み、制度変更、基幹システム刷新、共同利用型サービス、運用を長期にわたって支えることで、高い収益性を実現しています。
2026年3月期は、売上収益8,147億円でした。IFRS上の営業利益は海外事業の減損損失等により582億円でしたが、減損等を除く参考値では営業利益1,566億円、営業利益率19.2%です。国内事業は売上収益7,059億円、営業利益1,600億円、営業利益率22.7%と強い収益力を持ちます。2027年3月期は売上収益8,500億円、営業利益1,750億円を見込んでいます。
一方で、課題も明確です。海外事業の再建、金融ITへの依存、人材確保、大規模システムのプロジェクトリスク、AIによる競争環境の変化には注意が必要です。中期経営計画2028では、AIによるビジネス変革、デジタルセキュリティ、社会共創サービスを成長領域に掲げ、2028年度に売上収益9,500億円、営業利益2,000億円、営業利益率21.1%を目指しています。
就活生にとって、野村総合研究所は、経営コンサルティング、金融IT、産業IT、クラウド、セキュリティ、AI、社会インフラ、政策提言に関われる会社です。個人投資家にとっては、表面的な売上成長だけでなく、金融ITの共同利用型サービス、国内営業利益率、海外再建、AI投資、ROEと株主還元を見るべき企業です。
野村総合研究所は、単にシステムを作る会社ではありません。企業と社会の課題を見つけ、変革を構想し、実装し、運用し、時には業界共通のプラットフォームとして提供する会社です。その力を、DXの次に来るAI変革とデジタル社会資本づくりにどうつなげられるか。そこが、野村総合研究所 企業研究の最大のポイントになります。