ニコンを一言でいうと

ニコンは、カメラや交換レンズで知られる一方、半導体露光装置、FPD露光装置、顕微鏡、眼科機器、産業用測定機、光学コンポーネント、金属3Dプリンターまで手がける精密機器メーカーです。一般消費者には「Nikonのカメラ」の印象が強い会社ですが、企業としてのニコンは、光学、精密加工、画像処理、計測、装置技術を複数の産業へ展開している会社です。

ニコン 企業研究で重要なのは、同社を単なるカメラ会社として見ないことです。カメラ事業は現在も収益の柱であり、ZシリーズのミラーレスカメラやNIKKORレンズはブランド力を持っています。しかし、ニコンが長期的に目指しているのは、映像だけでなく、医療、半導体、電子部品、航空・宇宙、防衛、ものづくりソリューションまで含めて「光を使って人と機械をつなぐ会社」になることです。

同社の根本にあるのは、光を扱う技術です。カメラのレンズも、顕微鏡も、半導体露光装置も、測定機も、X線CT検査装置も、根底には「見えないものを見えるようにする」「微細なものを正確に測る」「光で形を作る」という発想があります。ニコン 強みは、写真好きに支持されるブランドだけではなく、レンズ、精密機械、画像処理、計測の組み合わせにあります。

一方で、現在のニコンは順風満帆ではありません。2026年3月期は、売上収益が6,771億円、営業損失が1,124億円となり、特にデジタルマニュファクチャリング事業の減損や精機事業の低迷が大きく響きました。映像事業は利益を出しているものの、半導体露光装置や金属3Dプリンターなど、将来の成長を期待して投資した領域で苦戦しています。つまりニコンは、強い光学技術を持ちながら、それをどの市場で利益に変えるかを改めて問われている会社です。

なぜ今ニコンを見るのか

今ニコンを見る理由は、同社が「カメラ中心の会社」から「光学技術を軸にした複数事業の会社」へ変わろうとしている途中だからです。

スマートフォンの普及により、コンパクトデジタルカメラ市場は大きく縮小しました。かつてのニコンは、デジタル一眼レフカメラやコンパクトカメラで大きな存在感を持っていましたが、現在の映像市場はプロ、ハイアマチュア、クリエイター、動画制作者、若年層のステップアップ需要を中心とする市場へ変化しています。ニコンはZマウントのミラーレスカメラと交換レンズで、量よりも単価とブランド価値を重視する方向へ進んでいます。

同時に、半導体市場も大きな転換期にあります。AI、データセンター、自動運転、スマートフォン、産業機器の高度化により、半導体需要は長期的に伸びると見られます。半導体を作るには露光装置が不可欠であり、ここはニコンが長年関わってきた領域です。しかし、最先端半導体露光装置ではオランダのASMLが圧倒的な存在感を持ち、ニコンはかつてのような主役ではありません。したがって、ニコンが精機事業で再び成長するには、ArF露光装置、後工程向けデジタル露光装置、測定・検査、サービスなど、勝てる領域を絞る必要があります。

さらに、ニコンは2026-2030年度中期経営計画で、2030年度に売上収益1兆円、営業利益800億円を目標に掲げています。そのために、映像、ヘルスケア、インダストリーで安定的な利益を作り、精機とデジタルマニュファクチャリングを将来の成長領域として育てる方針です。これは、全方位で新規事業を育てるのではなく、重点テーマを絞り込む方向へ転換したことを意味します。

投資家にとっては、映像事業の安定収益と、精機・デジタルマニュファクチャリングの再建が最大の焦点です。就活生にとっては、カメラだけでなく、半導体装置、医療、産業計測、金属3Dプリンター、光学部品、画像解析など、理系技術が幅広く活きる会社として見る必要があります。

成り立ち

ニコンの歴史は、1917年に設立された日本光学工業に始まります。光学兵器や測量機、顕微鏡、双眼鏡などを手がける光学機器メーカーとして出発しました。現在のニコンの根底にある「光学」と「精密」は、創業時からのテーマです。

1932年には、写真レンズのブランドとしてNIKKORが誕生します。1948年には初のカメラ「ニコンI型」を発売し、1959年には一眼レフカメラ「ニコンF」を発売しました。ニコンFは、プロ写真家や報道写真の世界で高い評価を受け、ニコンを世界的なカメラブランドへ押し上げました。頑丈で信頼できるカメラ、優れたレンズ、厳しい現場で使える道具というイメージは、この時代に強まりました。

1980年代には、半導体露光装置の分野にも本格的に進みます。1980年に国産初のステッパーを開発し、半導体製造装置メーカーとして成長しました。半導体露光装置は、カメラよりもさらに高精度な光学・機械・制御技術が必要です。ウエハ上に微細な回路パターンを転写する装置であり、半導体産業の中核設備の一つです。ニコンはこの領域で世界的な競争をしてきました。

1988年には社名を「ニコン」に変更しました。1995年にはデジタルカメラを発売し、フィルムからデジタルへの移行にも対応しました。2000年代にはデジタル一眼レフカメラで強い地位を築き、キヤノンと並ぶプロ・ハイアマチュア向けカメラメーカーとして存在感を持ちました。

近年では、2018年にフルサイズミラーレスカメラ向けのZマウントシステムを開始し、映像事業の再構築を進めました。また、2015年に眼科機器のOptosを完全子会社化し、2023年に金属3DプリンターのSLM Solutionsを完全子会社化、2024年にはデジタルシネマカメラのREDを完全子会社化しました。これらは、光学と映像、医療、ものづくりを広げるための重要な買収です。

事業内容

ニコンの事業は、映像事業、精機事業、ヘルスケア事業、インダストリー関連事業、デジタルマニュファクチャリング事業に分けて見ると理解しやすくなります。

映像事業では、ミラーレスカメラ、交換レンズ、デジタルシネマカメラ、双眼鏡、距離計などを扱います。代表的なのは、ZシリーズのミラーレスカメラとNIKKOR Zレンズです。スマートフォンでは満たせない高画質、望遠、暗所撮影、動画制作、作品づくりを求めるユーザーが主な対象です。近年は、REDの買収により、映画・映像制作向けのデジタルシネマカメラ領域にも踏み込んでいます。

精機事業では、FPD露光装置、半導体露光装置、半導体測定・検査、サービス、後工程向けデジタル露光装置などを扱います。FPD露光装置は液晶や有機ELなどのディスプレイ製造に使われます。半導体露光装置は、半導体ウエハ上に回路パターンを焼き付ける装置です。最先端領域では競争環境が厳しいものの、AI時代に半導体需要が伸びる中で、ニコンがどの工程・どの顧客で勝つかが重要になります。

ヘルスケア事業では、ライフサイエンス、アイケア、細胞受託生産を展開しています。顕微鏡や画像解析により、研究者や製薬企業の細胞観察、創薬研究、病理研究を支援します。アイケアではOptosの超広角走査型レーザー検眼鏡などを通じて、眼疾患の早期発見や診断支援に関わります。細胞受託生産では、再生医療や遺伝子治療に関わる細胞製造の支援を行います。

インダストリー関連では、工業用顕微鏡、測定機、X線・CT検査装置、光学コンポーネント、エンコーダ、EUV関連コンポーネント、宇宙関連製品、フォトマスク基板などがあります。自動車、航空・宇宙、防衛、電子部品、半導体、エネルギーなど、産業用途で「見えないものを見る」「測る」「検査する」技術を提供します。

デジタルマニュファクチャリング事業では、金属3Dプリンターを扱います。金属部品を積層造形する技術で、航空宇宙、防衛、エネルギー、医療、自動車などへの応用が期待されます。ただし、現時点では市場成長が想定より遅く、買収したSLM関連で大きな減損を計上しており、再建が必要な事業です。

収益構造

ニコンの収益構造は、現在は映像事業が大きな安定収益源になっています。2026年3月期の外部顧客向け売上収益では、映像事業が約2,900億円で最大です。セグメント利益も約167億円を出しており、全社の中で利益を支える柱です。かつてカメラ市場縮小がニコンの大きな不安材料でしたが、現在の映像事業は、市場を絞り込み、ミラーレス高級機や交換レンズで利益を出す構造へ変わっています。

一方、精機事業は売上約1,672億円ながら、2026年3月期はセグメント損失となりました。半導体露光装置ビジネスの低迷や顧客依存、FPD需要の変動が影響しています。半導体市場は長期的には成長が期待されますが、露光装置の競争は厳しく、顧客の投資サイクルにも左右されます。精機事業は、ニコンの歴史的な柱であると同時に、現在は収益再建が必要な領域です。

ヘルスケア事業は、売上約1,119億円、セグメント利益約16億円でした。ライフサイエンス、アイケア、細胞受託生産は、社会的意義が大きく、長期的な成長市場です。ただし、医療・研究機器は販売サイクルや研究投資の影響を受け、アイケアでは一時費用もありました。高い成長期待はあるものの、短期的に大きな利益を生むには事業効率化が必要です。

インダストリー関連、旧コンポーネント事業は、売上約762億円、セグメント利益約96億円でした。工業用顕微鏡、測定機、X線CT検査装置、光学コンポーネント、EUV関連部材などは、ニコンの光学・精密技術を産業用途へ展開する領域です。売上規模は映像より小さいですが、用途が広く、利益貢献も見込める事業です。

デジタルマニュファクチャリング事業は、売上約281億円に対して、セグメント損失が1,062億円と大きくなりました。これは、SLM関連の減損が主因です。将来性のある金属3Dプリンター市場へ進出したものの、市場成長や競争環境が買収時の想定と大きく変わり、巨額の損失を出しました。投資家にとっては、この事業がいつ黒字化するか、固定費削減と用途開拓が進むかが重要です。

事業内容の特徴

ニコンの事業内容の特徴は、すべての事業が「光学」と「精密」を共有していることです。映像、露光装置、顕微鏡、眼科機器、測定機、X線CT、EUV関連部材、金属3Dプリンターは一見ばらばらに見えます。しかし、光で対象を見る、光で微細な構造を作る、画像を解析する、精密に位置決めするという技術基盤は共通しています。

映像事業では、光を美しく記録することが価値になります。カメラとレンズは、画質、色、ボケ、階調、AF、動画性能、操作感、耐久性、ブランド体験が重要です。スマートフォンが日常写真を奪った後のカメラ市場では、単に撮れればよいのではなく、作品づくりや表現の道具として選ばれる必要があります。

精機事業では、光を使って微細なパターンを作ることが価値になります。半導体やディスプレイの製造では、ナノメートル単位、ミクロン単位の精度が求められます。ここではレンズだけでなく、ステージ制御、温度管理、振動制御、ソフトウェア、顧客プロセス対応が重要です。カメラの光学とは違う厳しさがあります。

ヘルスケアでは、光で生命現象を可視化することが価値になります。顕微鏡は研究者の目であり、眼科機器は人の視力や眼疾患を守るための装置です。ライフサイエンス、創薬、再生医療では、画像解析やAIも重要になります。ニコンの光学技術は、人間の健康を支える分野へ広がっています。

インダストリーでは、光で工業製品を検査し、測定することが価値になります。自動車部品、電子部品、航空機部品、半導体部品では、内部欠陥や微細形状を正確に測る必要があります。X線CTや画像測定機は、ものづくりの品質保証と深く関わります。

競合他社との違い

ニコンの競合は、事業ごとに異なります。映像事業では、キヤノン、ソニー、富士フイルム、パナソニック、ライカなどが競合になります。精機事業では、ASML、キヤノン、SCREEN、KLA、アプライドマテリアルズなどが関連します。ヘルスケアでは、オリンパス、カールツァイス、ライカマイクロシステムズ、トプコン、キヤノンメディカル系の領域が比較対象になります。金属3Dプリンターでは、EOS、GE Additive、Trumpf、中国系メーカーなどが競合します。

キヤノンとの比較は特に重要です。キヤノンもカメラ、レンズ、半導体露光装置、FPD露光装置、医療機器、プリンター、オフィス機器を持つ精密機器メーカーです。キヤノンはプリンティングやオフィス機器、医療機器を含む収益基盤が大きく、事業の幅が広い会社です。ニコンは、カメラと光学・精密装置への純度が高く、光学技術の専門性が強い一方、キヤノンほど大きな安定収益基盤を持っているわけではありません。

ソニーとの違いは、映像事業の立ち位置です。ソニーはカメラだけでなく、イメージセンサー、映画、音楽、ゲーム、放送機器を持つエンターテインメント・半導体企業です。カメラ市場では、フルサイズミラーレスで強い存在感があります。ニコンはセンサーを外部調達する立場であり、光学、カメラボディ、レンズ、色作り、プロ・ハイアマチュア向けの信頼性で勝負します。

コニカミノルタとの違いも分かりやすいです。コニカミノルタも写真・光学の歴史を持ちますが、現在は複合機、商業印刷、画像IoT、医療画像などに軸足があります。ニコンはカメラブランドを維持しながら、半導体露光装置、顕微鏡、測定機、光学コンポーネントへ広げています。どちらも光学・画像の会社ですが、ニコンはより「レンズと精密機械」に寄った会社です。

ASMLとの比較では、精機事業の厳しさが見えます。ASMLはEUV露光装置で半導体最先端工程を支配する会社です。ニコンはかつて半導体露光装置で強い存在感を持ちましたが、現在は最先端EUVの主役ではありません。そのため、ArF液浸、後工程向けデジタル露光、半導体測定・検査、サービスなど、勝てる領域を見極める必要があります。

事業の現代での潮流

ニコンを取り巻く潮流は、スマートフォン後のカメラ市場再編、AI時代の半導体需要、医療・ライフサイエンスの高度化、製造業の自動化、金属3Dプリンター市場の選別です。

映像市場では、スマートフォンが日常撮影をほぼ置き換えました。その結果、カメラメーカーは低価格・大量販売ではなく、高画質、動画、交換レンズ、プロ用途、クリエイター向けに市場を絞る必要があります。ニコンはZシリーズとNIKKOR Zレンズ、さらにRED買収によるデジタルシネマカメラで、静止画と動画の両方を取りに行こうとしています。

半導体市場では、AIやデータセンターの拡大により、高性能半導体への需要が増えています。ただし、露光装置市場では、最先端EUVにASMLが強く、ニコンがそのまま正面から勝つのは難しい状況です。ニコンが注力するべきなのは、ArF露光装置の価格・性能・サポート、後工程向けデジタル露光、測定・検査、サービス収益などです。半導体需要の伸びを、どの工程で取り込むかが課題です。

医療・ライフサイエンスでは、高齢化、創薬、再生医療、細胞治療、眼疾患の早期発見がテーマです。ニコンの顕微鏡、画像解析、アイケア機器、細胞受託生産は、ここに関わります。医療機器は規制や品質要求が厳しい一方、一度顧客基盤を作ると長期的な関係になりやすい市場です。

製造業では、検査・計測、自動化、ロボットビジョン、X線CT、3D計測の需要が高まっています。EV、航空機、半導体、電子部品では、目に見えない欠陥を見つける必要があります。ニコンのインダストリー事業は、カメラで培った画像技術とは違う形で、ものづくりの品質保証に貢献できます。

金属3Dプリンター市場では、期待と現実の差が出ています。航空宇宙、防衛、エネルギーでは有望ですが、量産適用や採算化には時間がかかります。中国メーカーの台頭や価格競争もあります。ニコンはSLM買収により市場参入しましたが、巨額減損を計上したため、今後は用途を絞り、固定費を抑え、黒字化への道筋を示す必要があります。

強み

ニコンの第一の強みは、光学技術です。NIKKORレンズで培った設計、研磨、コーティング、収差補正、耐久性、画像処理の技術は、映像だけでなく、顕微鏡、測定機、露光装置、光学コンポーネントにもつながります。光を正確に扱う技術は、ニコンの最も根本的な資産です。

第二の強みは、カメラブランドです。スマートフォン時代になっても、プロ、ハイアマチュア、クリエイター、野鳥・スポーツ・風景・動画ユーザーにとって、ニコンというブランドは意味を持ちます。ZシリーズのミラーレスカメラとNIKKOR Zレンズは、単なる家電ではなく、表現の道具です。映像事業が利益を出していることは、ニコンにとって重要な安定基盤です。

第三の強みは、精密装置の経験です。半導体露光装置、FPD露光装置、測定機、顕微鏡は、いずれも高精度な機械、光学、制御、ソフトウェアを必要とします。量産品のカメラとは違う難しさがありますが、顧客ごとのプロセスに深く入り込めば、長期的な関係を築けます。

第四の強みは、ヘルスケアとインダストリーへの展開余地です。高齢化、創薬、再生医療、半導体検査、航空宇宙、EV、ロボットなど、光学・画像・測定が必要な市場は多くあります。映像市場だけに依存しない事業構造へ変える余地があります。

第五の強みは、事業ポートフォリオを見直す姿勢です。2026-2030年度中期経営計画では、前中計の反省として、全方位で新規事業を育てるのではなく、重点テーマを絞り込む方針が示されました。RED、SLM、Optosなどの買収をどう活かすかは課題ですが、資源配分を見直すこと自体は必要な方向です。

弱み・リスク

ニコンの第一のリスクは、収益の不安定さです。2026年3月期のように、大きな減損や精機事業の低迷があると、全社の利益が大きく崩れます。映像事業が利益を出していても、デジタルマニュファクチャリングや精機が大きく赤字になると、会社全体では赤字になります。

第二のリスクは、精機事業の競争環境です。半導体露光装置ではASMLが強く、キヤノンも競合します。ニコンが最先端EUVで主役ではない以上、どの領域で勝つかを明確にしなければなりません。顧客が限られる装置ビジネスでは、主要顧客の投資動向に業績が大きく左右されます。

第三のリスクは、デジタルマニュファクチャリング事業です。金属3Dプリンターは将来性がある一方、市場の成長速度、価格競争、用途開拓、サービス体制が難しい分野です。SLM買収後に巨額減損を計上したことは、想定していた成長と現実に大きな差があったことを示します。今後の黒字化が確認できるまでは、投資家にとって注意が必要です。

第四のリスクは、映像市場の成熟です。カメラ市場はスマートフォンによって大きく縮小し、今後も大幅な台数成長は期待しにくい市場です。高価格帯ミラーレスや交換レンズで利益を出せるとしても、競合はキヤノン、ソニー、富士フイルムなど強力です。新規ユーザーや動画クリエイターを取り込めなければ、長期的には成長が限られます。

第五のリスクは、買収した会社との統合です。RED、SLM、Optosなどは、それぞれ異なる市場、文化、顧客を持ちます。買収はすれば終わりではなく、技術、販売、開発、ブランド、収益管理を統合する必要があります。統合に失敗すれば、のれん減損や追加費用が発生します。

数字で見るニコン

ニコンを見るときは、売上収益、営業利益、セグメント別売上と利益、減損損失、営業キャッシュフロー、研究開発費、株主還元を確認する必要があります。

2026年3月期のニコンは、売上収益6,771億円、営業損失1,124億円、親会社の所有者に帰属する当期損失861億円でした。前期はわずかながら営業黒字でしたが、当期は大幅赤字となりました。主因は、デジタルマニュファクチャリング事業を中心とする減損損失です。

セグメント別では、映像事業の外部顧客向け売上収益は2,900億円、セグメント利益は167億円でした。映像事業は、カメラ市場縮小後も、ミラーレスカメラと交換レンズを中心に利益を出す柱になっています。

精機事業は、売上収益1,673億円、セグメント損失46億円でした。半導体露光装置ビジネスの低迷が響いており、FPDや半導体関連の需要変動も受けます。ヘルスケア事業は売上収益1,119億円、セグメント利益16億円、コンポーネント事業は売上収益762億円、セグメント利益96億円でした。

最も大きな問題は、デジタルマニュファクチャリング事業です。売上収益281億円に対し、セグメント損失は1,063億円となりました。減損損失が大きく、2026年3月期の全社赤字の主因になっています。将来性のある分野へ進出したものの、買収時の前提が崩れたことで、投資の難しさが表面化しました。

2026-2030年度中期経営計画では、2030年度に売上収益1兆円、営業利益800億円、ROE10%を目標としています。事業別では、映像3,800億円、ヘルスケア1,500億円、インダストリー1,100億円、デジタルマニュファクチャリング700億円、精機2,900億円を目標としています。投資家は、この目標が単なる希望ではなく、受注、顧客開拓、黒字化、キャッシュフローで裏づけられているかを確認する必要があります。

今後の注目ポイント

今後の第一の注目ポイントは、映像事業の安定収益です。ZシリーズとNIKKOR Zレンズが、プロ・ハイアマチュア・若年クリエイター・動画制作者にどこまで支持されるかが重要です。RED買収によって、デジタルシネマカメラとニコンのレンズ・カメラ技術をどう組み合わせるかも注目されます。

第二の注目ポイントは、精機事業の再建です。半導体露光装置でASMLと同じ土俵で戦うのは難しいため、ArF露光装置、後工程向けデジタル露光、測定・検査、サービスでどれだけ顧客を広げられるかが重要です。AI時代の半導体需要は追い風ですが、その需要をニコンの装置がどこまで取り込めるかは別問題です。

第三の注目ポイントは、デジタルマニュファクチャリング事業の黒字化です。SLM関連で大きな減損を出した後、固定費削減、顧客開拓、米国生産拡大、用途の絞り込みが進むかを見る必要があります。航空・宇宙・防衛・エネルギー向けに、大型金属3Dプリンターが本当に収益化できるかが問われます。

第四の注目ポイントは、ヘルスケア事業です。ライフサイエンス、アイケア、細胞受託生産は、社会的意義が大きく、長期的な市場成長が期待されます。ただし、収益性を高めるには、製品改良、販売体制、サービス、研究機関・製薬企業との関係強化が必要です。

第五の注目ポイントは、インダストリー事業です。EUV関連コンポーネント、光学部品、X線CT検査装置、工業用顕微鏡、ロボットビジョン、レーザーレーダなどは、ニコンの光学技術を産業用途へ広げる領域です。映像と精機だけに依存しない収益源を作れるかが、長期的な安定性に関わります。

投資対象として

ニコンを投資対象として見る場合、同社は「映像事業で稼ぎながら、精機と新規事業の再建を進める光学・精密機器メーカー」と整理できます。単なるカメラ会社として見ると、現在の事業ポートフォリオを見誤ります。一方で、半導体や医療の成長企業としてだけ見るのも危険です。足元では赤字であり、事業ごとの明暗がはっきり分かれています。

ポジティブに見るなら、ニコンには強い光学技術とブランドがあります。NIKKORレンズ、Zシリーズ、顕微鏡、露光装置、測定機、光学コンポーネントは、同じ技術基盤から生まれています。映像事業が利益を出し続け、ヘルスケアやインダストリーが伸びれば、安定収益を作ることは可能です。さらに、精機やデジタルマニュファクチャリングが再建できれば、企業価値の上振れ余地もあります。

また、2030年度の売上収益1兆円、営業利益800億円という目標は、達成できれば大きな変化です。映像、ヘルスケア、インダストリーでキャッシュを生み、精機とデジタルマニュファクチャリングへ重点投資するという構図は、理屈としては分かりやすいものです。

一方で、慎重に見るべき点も多くあります。精機事業は競争が厳しく、主要顧客の投資動向に左右されます。デジタルマニュファクチャリングは巨額減損の後であり、黒字化の実行力が問われます。映像事業も成熟市場であり、キヤノン、ソニー、富士フイルムとの競争が続きます。買収企業の統合や追加減損リスクにも注意が必要です。

したがって、ニコンの株価を見るときは、PBRや配当利回りだけでなく、セグメント別利益、映像事業の利益率、精機事業の受注、デジタルマニュファクチャリングの赤字縮小、ヘルスケアの利益改善、営業キャッシュフロー、減損リスクを合わせて見るべきです。光学技術の魅力と、事業再建の難しさをセットで評価する必要があります。

まとめ

ニコンは、カメラとレンズで世界的に知られる一方、半導体露光装置、FPD露光装置、顕微鏡、眼科機器、測定機、X線CT検査装置、光学コンポーネント、金属3Dプリンターまで展開する精密機器メーカーです。根底にあるのは、光学、精密機械、画像処理、計測の技術です。

ニコン 強みは、NIKKORに代表される光学技術、Zシリーズのカメラブランド、半導体・FPD露光装置の技術蓄積、顕微鏡・アイケア・産業計測への応用力にあります。スマートフォン後のカメラ市場でも、映像事業は利益を出す柱になっています。

一方で、課題も明確です。2026年3月期はデジタルマニュファクチャリング事業の減損により大幅赤字となり、精機事業も苦戦しました。半導体露光装置ではASMLという強力な競合があり、金属3Dプリンターでは市場成長や競争環境が想定通り進んでいません。ニコンは、技術があるだけではなく、その技術をどの市場で利益に変えるかを改めて問われています。

就活生にとって、ニコンはカメラだけでなく、半導体装置、医療、ライフサイエンス、産業計測、光学コンポーネント、金属3Dプリンターまで関われる会社です。個人投資家にとっては、映像事業の安定性と、精機・デジタルマニュファクチャリングの再建を分けて見るべき企業です。

ニコンは、単なるカメラメーカーではありません。光を使って世界を見えるようにし、測り、作り、記録する会社です。その光学技術を、成熟したカメラ市場だけでなく、半導体、医療、産業検査、ものづくりへどこまで利益として広げられるか。それが、今後のニコンを見る最大のポイントになります。