このテーマを一言でいうと?
円安で儲かる企業・苦しい企業とは、為替レートの変化によって、売上、利益、原価、海外事業、輸入コスト、株価評価が変わる企業の違いを考えるテーマです。円安とは、円の価値が他の通貨に対して下がることです。たとえば、1ドル100円だったものが1ドル150円になると、同じ1ドルを得たときの円換算額は大きくなります。
円安は、企業によって追い風にも逆風にもなります。海外で売上を稼ぐ企業にとっては、海外売上を円に換算したときの金額が増えるため、業績が押し上げられることがあります。自動車メーカーや精密機器、電子部品、ゲーム、機械、総合商社などは、円安の恩恵を受けやすい場合があります。
一方で、海外から原材料や商品を輸入する企業にとっては、円安はコスト上昇要因になります。食品メーカー、エネルギー企業、小売業、外食、航空、輸入商材を扱う企業は、仕入れコストが上がりやすくなります。価格転嫁できなければ、営業利益率が低下します。
企業研究で円安を見るときに大切なのは、「輸出企業だから円安で儲かる」「輸入企業だから円安で苦しい」と単純に考えないことです。実際には、海外生産、現地調達、為替ヘッジ、原材料価格、販売価格、競争環境が関係します。海外売上が多くても、海外で生産して海外で販売している場合、円安効果は限定的なこともあります。
円安は、売上を増やす場合もあれば、原価を増やす場合もあります。企業研究では、その会社がどの通貨で売上を得て、どの通貨で費用を払っているのかを見ることが大切です。
円安で儲かりやすい企業
円安で儲かりやすい企業の代表は、海外売上比率が高い企業です。海外でドルやユーロなどの外貨建て売上を得ている企業は、その売上を円に換算したときに金額が増えやすくなります。
自動車業界はその代表例です。日本の自動車メーカーは海外販売比率が高く、北米、欧州、アジアなどで車を販売しています。円安になると、海外で得た利益を円に換算したときに増えることがあります。ただし、海外生産や現地調達も多いため、為替効果の大きさは企業ごとに異なります。
半導体関連企業や製造装置メーカーも円安の恩恵を受けることがあります。海外顧客に製品を販売している企業は、外貨建て売上の円換算額が増えます。特に高付加価値な製品を海外に販売している企業は、円安が利益を押し上げる可能性があります。
総合商社も円安の影響を受けやすい業界です。海外事業や資源関連収益が多いため、外貨建て利益の円換算額が増えることがあります。資源価格と為替が同時に業績へ影響するため、商社を見るときは為替と資源価格をあわせて確認する必要があります。
ゲーム業界も海外売上が大きい企業では円安の恩恵を受けることがあります。海外でソフトやデジタルコンテンツを販売し、その売上を円換算すると増えるためです。特にデジタル販売やIP収益は、原価が比較的増えにくい場合があり、利益率にプラスになることがあります。
ただし、円安で儲かる企業にも注意点があります。為替による利益増は、企業の本業の競争力が高まった結果ではない場合があります。投資家は、円安効果を除いた実力ベースの成長も確認する必要があります。
円安で苦しくなりやすい企業
円安で苦しくなりやすいのは、輸入原材料や輸入商品に依存する企業です。円の価値が下がると、海外から買う原材料や商品の円建て価格が上がるためです。
食品業界は、円安の影響を受けやすい業界の一つです。小麦、大豆、とうもろこし、油脂、砂糖、カカオ、コーヒー豆、乳製品、肉類など、多くの原材料は海外市況や為替の影響を受けます。円安になると輸入原材料のコストが上がり、食品メーカーの原価を押し上げます。
エネルギー業界も影響を受けます。日本は原油、LNG、石炭などのエネルギー資源を多く輸入しています。円安になると、燃料の輸入コストが上がり、電気料金、ガス料金、ガソリン価格にも影響します。
小売業や外食産業も影響を受けます。輸入食品、輸入雑貨、海外ブランド品、食材、包装資材、エネルギー費が上がると、仕入れコストが増えます。価格を上げられなければ利益率が下がります。
航空業界や海外旅行関連企業も円安の影響を受けます。燃料費や海外での運航コストが上がるほか、日本人の海外旅行需要が弱くなる可能性があります。一方で、訪日外国人にとっては日本旅行が割安になりやすいため、インバウンド関連企業には追い風になることがあります。
輸入コストが増える企業にとって大切なのは、価格転嫁力です。円安で仕入れコストが上がっても、販売価格に反映できれば利益を守れます。反対に、値上げできない企業は利益が圧迫されます。
円安で苦しい企業を見るときは、輸入依存度、価格転嫁力、ブランド力、競争環境、営業利益率を確認することが重要です。
円安と営業利益率
円安は、企業の営業利益率に大きな影響を与えます。営業利益率は、本業でどれだけ効率よく利益を出しているかを見る指標です。円安によって売上が増える企業もあれば、原価が増える企業もあり、その差が営業利益率に表れます。
海外売上が多い企業では、円安によって売上高が増えやすくなります。外貨建て売上を円に換算すると金額が増えるためです。もし費用の多くが円建てであれば、売上増が利益増につながりやすくなります。
一方で、輸入原材料が多い企業では、円安によって売上原価が増えます。売上が同じでも原価が上がれば、営業利益率は下がります。値上げできれば利益率を守れますが、値上げが遅れれば一時的に利益率が悪化します。
円安の影響にはタイムラグがあります。原材料の仕入れコストは先に上がる一方、販売価格の改定は後から行われることがあります。そのため、円安局面では一時的に利益率が悪化し、その後に値上げ効果で回復する企業もあります。
また、為替ヘッジを行っている企業もあります。為替予約などを使って、一定期間の為替変動リスクを抑えることがあります。この場合、円安の影響がすぐに決算に出ないこともあります。
投資家は、決算を見るときに為替影響を分けて考える必要があります。売上や利益が伸びていても、それが販売数量の増加なのか、値上げなのか、円安効果なのかを確認することが大切です。
円安は、営業利益率を押し上げることもあれば、押し下げることもあります。その企業の売上通貨と費用通貨のバランスを見ることが重要です。
円安とインバウンド・消費
円安は、インバウンド需要にも影響します。円安になると、海外から日本を訪れる旅行者にとって、日本での買い物や宿泊、飲食が割安に感じられやすくなります。そのため、訪日外国人の消費が増える可能性があります。
インバウンド関連企業には、小売、ホテル、外食、交通、観光施設、百貨店、ドラッグストア、家電量販店、エンタメ関連企業があります。訪日客が増え、消費額が増えれば、これらの企業の売上にプラスになります。
特に、都市部や観光地に店舗や施設を持つ企業は恩恵を受けやすいです。化粧品、医薬品、食品、家電、キャラクター商品、ゲーム関連商品などは、訪日客の購買対象になりやすい分野です。
一方で、円安は日本人の海外旅行には逆風になります。海外での宿泊、食事、買い物が高くなるため、海外旅行を控える人が増える可能性があります。その場合、海外旅行関連サービスにはマイナスになることがあります。
国内消費にも影響があります。円安によって輸入食品やエネルギー価格が上がると、家計の負担が増えます。生活費が上がれば、消費者は節約志向を強めることがあります。これは小売、外食、アパレル、娯楽消費に影響する可能性があります。
円安は、インバウンドには追い風になりやすい一方、輸入物価を通じて国内家計には負担になることがあります。企業研究では、どの顧客層に売っている企業なのかを確認することが大切です。
職種ごとに見る円安の影響
円安は、企業の中のさまざまな職種にも関係します。特に調達、営業、経理財務、IR、マーケティングで重要になります。
調達職では、海外から仕入れる原材料や部品の価格が上がります。為替変動を見ながら仕入れ先を分散したり、価格交渉をしたり、在庫を調整したりする必要があります。円安局面では、調達力が企業の利益を守るうえで重要になります。
営業職では、値上げ交渉が必要になることがあります。輸入コストや原材料費が上がった分を顧客に説明し、価格改定を受け入れてもらう必要があります。BtoBでもBtoCでも、価格転嫁には営業力が関係します。
経理財務では、為替差益、為替差損、海外子会社の円換算、為替ヘッジ、キャッシュフローへの影響を管理します。グローバル企業では、為替は決算に大きく影響するため、財務部門の役割が重要です。
IRでは、投資家に対して為替影響を説明する必要があります。利益が増えた理由が本業の成長なのか、円安効果なのかを分けて伝えることが重要です。
マーケティングでは、円安による消費者心理の変化を読む必要があります。輸入品が高くなる中で、国産品の魅力を打ち出すのか、値上げをどう受け入れてもらうのか、インバウンド向けにどう訴求するのかが問われます。
円安は、経営層だけが見るテーマではありません。多くの職種に関係するため、就活生や新入社員にとっても理解しておく価値があります。
投資家が見るべきポイント
投資家が円安テーマを見るときは、まず海外売上比率を確認します。海外売上が多い企業は、円安によって売上や利益が押し上げられる可能性があります。ただし、海外で生産して海外で販売している場合、為替効果は限定的なこともあります。
次に、輸入コストを見ます。原材料や商品を海外から仕入れている企業は、円安で原価が上がります。食品、エネルギー、小売、外食では特に注意が必要です。
為替感応度も重要です。企業によっては、1円円安になると営業利益がどれだけ増減するかを公表している場合があります。これを見ると、為替が業績に与える影響を把握しやすくなります。
営業利益率の変化も確認します。円安で売上が増えても、原価も増えていれば利益率は改善しません。売上高の増加だけでなく、利益率を見ることが大切です。
キャッシュフローも重要です。為替によって利益が増えても、在庫や仕入れに現金が必要になれば、キャッシュフローは悪化することがあります。
また、円安効果は一時的な場合があります。為替は変動します。円安による利益増を、企業の恒久的な成長力と混同しないことが大切です。投資家は、為替を除いた実力ベースの成長を確認する必要があります。
まとめ
円安は、輸出企業、海外売上比率が高い企業、輸入原材料に依存する企業、インバウンド関連企業に異なる影響を与えます。海外で稼ぐ企業には追い風になりやすい一方、輸入コストが大きい企業には逆風になりやすいテーマです。
自動車、半導体、総合商社、ゲームなどは、円安の恩恵を受ける場合があります。一方で、食品、エネルギー、小売、外食などは、輸入コスト上昇によって利益が圧迫される可能性があります。ただし、価格転嫁できる企業は利益を守ることができます。
投資家にとっては、海外売上比率、輸入コスト、為替感応度、営業利益率、キャッシュフローを見ることが重要です。就活生や新入社員にとっては、調達、営業、経理財務、IRで為替を見る意味を理解する入口になります。一般読者にとっては、円安ニュースが身近な価格や企業業績にどうつながるかを知る手がかりになります。
企業研究では、「円安だから儲かる」「円安だから苦しい」と単純に考えるのではなく、その企業がどこで売上を得て、どこで費用を払い、どこまで価格転嫁できるのかを見ることが大切です。