ラクスを一言でいうと
ラクスは、「楽楽精算」「楽楽明細」「楽楽販売」「楽楽勤怠」などのクラウドサービスを通じて、企業の経費精算、請求書発行、販売管理、勤怠管理、電子保存、問い合わせ対応、メールマーケティングなどを効率化するSaaS企業です。名前の通り、企業の面倒な事務作業を「楽」にするサービスを積み上げて成長してきた会社です。
ラクス ビジネスモデルの中心は、月額課金型のクラウドサービスです。顧客企業は、一度導入すると毎月利用料を払い続けます。ラクス側から見ると、新規顧客を獲得し、解約を抑え、価格改定や上位プラン、複数サービス導入によって単価を上げることで、売上と利益が積み上がります。ソフトを一度売って終わりではなく、継続利用が収益の中心になる点が、SaaS企業としての特徴です。
特に重要なのは、ラクスが中小企業・中堅企業のバックオフィスに深く入り込んでいることです。経費精算、請求書発行、販売管理、勤怠管理、電子帳簿保存、問い合わせ対応、メール配信は、どれも企業の現場で毎月発生する業務です。派手なAIサービスや巨大な基幹システムではありませんが、どの企業にもある地味で面倒な仕事をクラウドで効率化する。ここにラクスの強さがあります。
2026年3月期の売上高は602億円、営業利益は173億円、営業利益率は28.8%でした。クラウド事業だけを見ると、売上高は517億円、営業利益は160億円、営業利益率は31.0%です。SaaS企業として高い売上総利益率を持ち、広告宣伝費や人件費をコントロールすることで、高い営業利益率を出せる構造になっています。
一方で、2027年3月期からは見え方が変わります。これまで併存していたIT人材事業は譲渡され、クラウド事業により集中する形になります。売上高はIT人材事業の非連結化で見かけ上横ばいに近くなりますが、クラウド事業は引き続き成長する計画です。つまりラクスは、より純度の高いSaaS企業へ移行している段階にあります。
なぜ今ラクスを見るのか
今ラクスを見る理由は、国内SaaS市場が「導入すれば伸びる成長期」から、「収益性、クロスセル、AI活用、エンタープライズ展開が問われる成熟期」へ移っているからです。
ラクスは長く、中小企業・中堅企業向けSaaSの成長企業として評価されてきました。特に楽楽精算は、経費精算システムとして広く認知され、テレビCMを含む広告宣伝によってブランドを作ってきました。楽楽明細は、インボイス制度や電子帳簿保存法対応の流れもあり、電子請求書・帳票発行の需要を取り込みました。楽楽販売は、Excelや個別管理に頼っていた販売管理業務をクラウド化するサービスとして伸びました。
ただし、今後は「クラウド化すれば自然に伸びる」という単純な局面ではありません。楽楽精算のような経費精算市場は成熟しつつあり、楽楽明細も制度改正による一過性の需要が一巡しています。新規顧客の獲得難易度は上がり、競合も増えています。そこでラクスは、既存顧客へ複数プロダクトを売るクロスセル、エンタープライズ市場への進出、AI機能の実装、M&Aを含む投資戦略へ進もうとしています。
2026年3月期の決算では、売上高は前期比23.3%増、営業利益は70.2%増でした。これは、クラウド事業の増収効果に加えて、広告宣伝費の効率化が効いたためです。SaaS企業では、売上を伸ばすために広告宣伝費を大きく使うことがあります。しかし、広告を増やしても顧客獲得効率が悪ければ利益は残りません。ラクスは、成長投資を続けながらも、広告宣伝費の最適化によって利益率を大きく改善しました。
また、IT人材事業の譲渡も重要です。ラクスはもともとクラウド事業とIT人材事業の二本立てでしたが、2026年4月にIT人材事業を譲渡しました。これにより、2027年3月期以降はクラウド事業中心の会社として見やすくなります。投資家にとっては、SaaS事業の収益性、キャッシュ創出力、資本効率、株主還元がより重要になります。
就活生にとっても、ラクスは単なる業務ソフト会社ではありません。バックオフィスのSaaS、BtoBマーケティング、テレビCMを使ったブランド戦略、カスタマーサクセス、AI機能開発、プロダクト連携、エンタープライズ営業を学べる会社です。中小企業向けクラウドサービスの積み上げ収益を理解するうえで、非常に分かりやすい企業です。
成り立ち
ラクスの歴史は、2000年11月に大阪市で株式会社アイティーブーストとして設立されたところから始まります。最初から現在のような楽楽クラウドの会社だったわけではありません。2001年にはITエンジニアスクール事業とITシステム事業を開始し、統合メールサポートシステム「メールディーラー」、現在の楽楽自動応対の販売を始めました。
2002年にはIT人材事業を開始しました。これは、後に譲渡されるラクスパートナーズにつながる事業です。つまりラクスは、クラウドサービスだけでなく、IT人材育成・派遣の色も持つ会社として成長してきました。
2007年にはメール配信システム「配配メール」、現在の楽楽メールマーケティングの販売を開始しました。2008年には販売管理システム「楽楽販売」、2009年には経費精算システム「楽楽精算」を開始します。2010年には商号を株式会社アイティーブーストから株式会社ラクスへ変更しました。このあたりから、現在のラクスらしい「業務を楽にするクラウドサービス」の軸が明確になります。
その後、楽楽精算が主力サービスとして大きく伸びます。企業の経費精算は、紙の領収書、Excelの申請書、上司承認、経理チェック、振込処理など、非常に手間がかかる業務でした。ラクスは、そこをクラウド化し、現場の申請者、承認者、経理担当者の負担を減らすサービスとして普及させました。テレビCMによる認知拡大もあり、楽楽精算はラクスの代表的なブランドになります。
さらに、楽楽明細、楽楽販売、楽楽勤怠、楽楽電子保存、楽楽請求、楽楽人事労務など、バックオフィスの周辺業務へサービスを広げています。2025年にはメールディーラーと配配メールを楽楽クラウドブランドへ統合し、楽楽自動応対、楽楽メールマーケティングとして展開する方針を示しました。これは、ラクスが個別プロダクトの集合体から、楽楽クラウドという統一ブランドへ進もうとしていることを示しています。
事業内容
ラクスの事業は、2026年3月期まではクラウド事業とIT人材事業の二つに分かれていました。ただし、2026年4月にIT人材事業の譲渡が完了したため、今後の中心はクラウド事業です。
クラウド事業の中核は、楽楽クラウドです。楽楽精算は、経費精算システムです。交通費、出張費、交際費、領収書、承認、仕訳、振込データ作成など、経理と現場をつなぐ業務を効率化します。経費精算は毎月発生するため、一度導入されると解約されにくく、安定した月額収益につながります。
楽楽明細は、電子請求書発行・帳票発行システムです。請求書、納品書、支払明細、領収書などをWeb上で発行し、郵送や印刷、封入作業を削減します。インボイス制度や電子帳簿保存法への対応を背景に成長してきました。紙の請求書を郵送する手間、郵送費、再発行対応、保管業務を減らせることが価値です。
楽楽販売は、販売管理システムです。見積、受注、発注、請求、入金、在庫、案件管理など、企業ごとにExcelや個別システムで管理されがちな業務をクラウド化します。販売管理は企業ごとの業務差が大きく、会計や経費精算よりもカスタマイズ性が求められます。ラクスはここでも「現場が使いやすいクラウド」として展開しています。
楽楽勤怠は、勤怠管理システムです。出退勤、休暇、残業、シフト、労働時間管理などを扱います。人手不足や労務管理の厳格化により、勤怠管理のクラウド化需要は続いています。2026年3月期からは、楽楽勤怠の売上を独立区分として開示するようになりました。
その他にも、楽楽自動応対、楽楽メールマーケティング、楽楽電子保存、楽楽請求、楽楽人事労務などがあります。楽楽人事労務は2026年4月から提供開始され、従業員台帳管理、入退社手続き、身上変更、年末調整、人事評価などを一元化するサービスです。ラクスは、経理・販売だけでなく、人事労務領域にも広げようとしています。
収益構造
ラクスの収益構造は、SaaSのストック売上が中心です。顧客企業が楽楽クラウドを契約し続けることで、毎月の利用料が積み上がります。2026年3月期のクラウド事業ARRは500億円を超え、ストック売上高比率は92.6%でした。これは、売上の大部分が継続課金であることを示しています。
2026年3月期の連結売上高は602億円、営業利益は173億円、親会社株主に帰属する当期純利益は132億円でした。営業利益率は28.8%です。売上総利益率は75.3%で、SaaS企業らしい高い粗利率を持ちます。営業キャッシュフローは133億円、フリーキャッシュフローは105億円でした。大規模な工場やデータセンターを持つビジネスではないため、利益がキャッシュに変わりやすい構造です。
セグメント別では、クラウド事業の売上高は517億円、営業利益は160億円、営業利益率は31.0%でした。IT人材事業の売上高は85億円、営業利益は13億円、営業利益率は15.5%でした。IT人材事業も好調でしたが、今後はクラウド事業に集中するため、2027年3月期には連結対象外となります。
クラウド事業のサービス別売上を見ると、2026年3月期は楽楽精算が207億円、楽楽明細が130億円、楽楽販売が71億円、楽楽勤怠が20億円、楽楽自動応対が34億円、メール配信が41億円、その他が12億円でした。構成比では、楽楽精算が40.0%、楽楽明細が25.2%、楽楽販売が13.8%です。つまり、楽楽精算と楽楽明細が中心でありながら、楽楽販売や楽楽勤怠などの成長余地も持つ構造です。
2027年3月期の会社計画では、売上高597億円、営業利益205億円、営業利益率34.3%を見込んでいます。売上高だけ見ると前期比1.0%減ですが、これはIT人材事業の譲渡影響によるものです。クラウド事業は売上高597億円を計画し、前期比15.3%増です。親会社株主に帰属する当期純利益は252億円を見込みますが、ここにはIT人材事業譲渡に伴う特別利益が大きく含まれます。通常の事業利益と一時的な譲渡益は分けて見る必要があります。
事業内容の特徴
ラクスの事業内容の特徴は、企業のバックオフィス業務の中でも、導入しやすく、効果が分かりやすい領域を狙っていることです。
大企業向けERPのように、会計、人事、販売、生産、物流をすべて一体で置き換えるシステムではありません。ラクスは、経費精算、請求書発行、販売管理、勤怠管理、電子保存、問い合わせ対応など、特定業務に深く刺さるサービスを提供します。この考え方は、ベストオブブリードに近いものです。つまり、全社統合システムを一気に入れるのではなく、業務ごとに最も使いやすいクラウドを選んでもらう戦略です。
一方で、ラクスは単なる個別プロダクトの寄せ集めから、統合型ベストオブブリードへ進もうとしています。楽楽従業員ポータルのような共通ID基盤を整え、複数サービス間のデータ連携を強めることで、楽楽クラウド全体としての使いやすさを高めようとしています。これは、複数サービス導入を促すうえで重要です。
たとえば、楽楽明細で発行した請求書のデータが楽楽請求や楽楽電子保存とつながり、楽楽精算の証憑データが電子保存と連携し、勤怠や人事労務の情報が共通ID基盤に集まるようになれば、顧客はラクスの複数サービスを使う意味を感じやすくなります。単独サービスとして便利なだけでなく、複数導入するほど便利になる状態を作れるかが、今後の成長に関わります。
また、ラクスはテレビCMを中心に強いブランド認知を作ってきました。BtoB SaaSでは、製品の機能だけでなく、顧客が比較検討するときに最初に候補に入ることが重要です。楽楽精算や楽楽明細は、経理担当者や経営者にとって認知度が高く、営業活動を効率化する武器になります。
競合他社との違い
ラクスの競合は、Sansan、サイボウズ、マネーフォワード、freee、弥生、オービックビジネスコンサルタント、ピー・シー・エー、SmartHR、ジョブカン、TOKIUM、LayerX、奉行シリーズ、各種経費精算・請求書発行・販売管理SaaSです。
Sansanとの違いは、取引データの入口です。Sansanは名刺管理、営業DX、Bill Oneによる請求書受領、Contract Oneによる契約データベースに強い会社です。ラクスは、楽楽精算、楽楽明細、楽楽販売を中心に、経理・販売・勤怠・問い合わせ・メール配信など、バックオフィスと業務処理の効率化に強い会社です。Sansanが名刺・請求書・契約書など企業間取引データのデータ化を軸にするなら、ラクスは現場業務の「処理」を楽にするSaaS群です。
サイボウズとの違いは、業務アプリ基盤か、完成された業務SaaSかです。サイボウズのkintoneは、顧客企業が自社業務に合わせてアプリを作れるプラットフォームです。柔軟性が高い一方、設計や運用には一定の工夫が必要です。ラクスは、経費精算、請求書発行、販売管理、勤怠管理など、目的が明確な完成型クラウドを提供します。自社で作り込むより、すぐに業務を楽にしたい企業に向いています。
マネーフォワードやfreeeとの違いは、会計中心か、業務別SaaS中心かです。マネーフォワードやfreeeは、クラウド会計を中心に、請求、経費、給与、勤怠、支払、カードなどへ広げています。ラクスは会計ソフトそのものを中心にしているわけではなく、経費精算、請求書発行、販売管理など、会計周辺の業務処理を効率化する立場です。会計システムと連携しながら、その前後の現場業務を押さえる会社といえます。
オービックとの違いは、企業規模とシステムの深さです。オービックはOBIC7を中心に、中堅・大手企業の基幹業務ERPを自社開発・直接販売し、非常に高い利益率を持つ会社です。ラクスは、より導入しやすいクラウドサービスを中小・中堅企業へ広く提供します。オービックが大きな基幹業務を深く統合する会社なら、ラクスは特定業務の課題をクラウドで素早く解決する会社です。
SmartHRとの違いは、HR領域の専門性です。SmartHRは労務・人事データを中心に成長してきた会社です。ラクスは楽楽勤怠や楽楽人事労務を出していますが、主力は経費精算、請求書発行、販売管理です。今後HR領域へ広げるにしても、ラクスの強みはバックオフィス全体の複数サービス連携にあります。
事業の現代での潮流
ラクスを取り巻く潮流は、バックオフィスDX、人手不足、法制度対応、SaaS市場の成熟、AI活用、エンタープライズ進出です。
第一に、バックオフィスDXです。中小企業や中堅企業では、経費精算、請求書発行、販売管理、勤怠管理がまだ紙やExcel、メール、個別システムで処理されていることがあります。人手不足が進むほど、こうした事務作業を減らしたい需要は強くなります。ラクスのサービスは、この需要に直接応えます。
第二に、法制度対応です。インボイス制度、電子帳簿保存法、労務管理の厳格化などにより、企業はバックオフィスのシステム対応を迫られています。楽楽明細や楽楽電子保存、楽楽精算は、こうした制度対応と相性がよいサービスです。ただし、制度改正による特需は一巡するため、今後は制度対応だけでなく、業務効率化や複数サービス連携による価値が重要になります。
第三に、SaaS市場の成熟です。国内クラウド市場はまだ成長していますが、経費精算や電子請求書のような一部領域では競争が激しくなっています。ラクス自身も、楽楽明細の新規獲得難易度が上がっていることを説明しています。市場が成熟する中で、広告宣伝費を大量投入するだけではなく、顧客単価、解約率、クロスセル、生産性を改善する必要があります。
第四に、AI活用です。ラクスは生成AIを短期的な事業構造リスクとは見ていませんが、機会として積極活用する方針です。AI機能の実装によってARPU向上や解約率抑制を狙い、社内活用によって正社員一人当たり売上を高めようとしています。楽楽販売では、業務フロー整理から環境構築までをAIが支援する仕組みを進めています。
第五に、エンタープライズ進出です。ラクスは従来、従業員数30人から1,000人程度のSMB・MMBを主戦場としてきました。今後は、従業員数1,000名以上の大企業向けにも本格展開しようとしています。エンタープライズ市場は大きい一方、既存システムからのリプレイス提案、セキュリティ基準、営業期間、サポート体制が難しくなります。ここで成功できるかが、次の成長余地になります。
強み
ラクスの第一の強みは、楽楽ブランドの認知度です。楽楽精算、楽楽明細、楽楽販売は、バックオフィスSaaSの中で強いブランドを持っています。テレビCMを中心とした広告宣伝により、経理担当者や経営者が比較検討するときに候補に入りやすい。BtoB SaaSでは、この認知度が営業効率に大きく影響します。
第二の強みは、高いストック売上比率です。2026年3月期のクラウド事業ARRは500億円を超え、ストック売上高比率は92.6%でした。月額課金が中心であるため、売上が積み上がりやすく、解約率を低く保てれば将来収益の見通しが立てやすい構造です。
第三の強みは、高い収益性です。2026年3月期のクラウド事業営業利益率は31.0%、連結営業利益率は28.8%でした。SaaS企業として高い粗利率を持ち、広告宣伝費の効率化が進むと営業利益率が大きく上がります。2027年3月期は連結営業利益率34.3%を計画しています。
第四の強みは、複数プロダクトを持つことです。楽楽精算が成熟しても、楽楽明細、楽楽販売、楽楽勤怠、楽楽人事労務、楽楽請求、楽楽電子保存など、成長段階の異なるサービスがあります。成熟プロダクトが利益を生み、高成長プロダクトが売上を伸ばし、新規プロダクトが次の成長の種になる構造です。
第五の強みは、キャッシュ創出力と財務基盤です。2026年3月期の営業キャッシュフローは133億円、フリーキャッシュフローは105億円でした。IT人材事業譲渡後の現預金や営業キャッシュフローを活用し、M&A、AIネイティブプロダクト開発、株主還元を行う余力があります。
弱み・リスク
ラクスの第一のリスクは、主力市場の成熟です。楽楽精算は経費精算市場で強い位置を持ちますが、市場が成熟すれば新規獲得の成長率は下がります。楽楽明細も制度改正需要が一巡し、新規受注の難易度が上がっています。成長を続けるには、クロスセル、エンタープライズ、AI機能、M&Aが必要になります。
第二のリスクは、広告宣伝費依存です。ラクスはテレビCMを含む広告宣伝で強いブランドを作ってきました。これは強みである一方、広告効率が悪化すれば利益を圧迫します。2026年3月期は広告宣伝費の最適化で営業利益率が大きく改善しましたが、広告を抑えすぎれば将来のリード獲得に影響する可能性もあります。
第三のリスクは、競争の激化です。経費精算、請求書発行、販売管理、勤怠管理、人事労務、電子保存の各領域に競合がいます。マネーフォワード、freee、Sansan、SmartHR、ジョブカン、TOKIUM、LayerX、奉行、PCAなど、強いプレイヤーが多い市場です。ラクスはブランドと使いやすさで差別化していますが、機能差が縮まれば価格競争や乗り換え提案が増える可能性があります。
第四のリスクは、エンタープライズ進出の難しさです。大企業向け市場は大きいですが、求められるセキュリティ、権限管理、監査対応、既存システム連携、導入支援は中小企業よりも厳しくなります。営業期間も長く、競合も強い。SMB・MMBで成功した営業モデルを、そのまま大企業向けに適用できるとは限りません。
第五のリスクは、AIによる業務ソフト市場の変化です。ラクスは生成AIを短期的な事業構造リスクとは見ていませんが、将来的にはAIが経費精算、請求書処理、販売管理、勤怠管理の入力や承認を大きく変える可能性があります。AIを自社サービスに組み込めれば強みになりますが、競合がより優れたAI体験を提供すれば、乗り換えリスクも出てきます。
数字で見るラクス
ラクスを見るときは、売上高、営業利益、営業利益率、クラウド事業ARR、ストック売上高比率、サービス別売上、広告宣伝費、人件費、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー、ROE、株主還元を見る必要があります。
2026年3月期の連結売上高は602億円、営業利益は173億円、経常利益は174億円、親会社株主に帰属する当期純利益は132億円でした。営業利益率は28.8%、自己資本比率は71.2%です。売上総利益率は75.3%で、SaaS企業として高い粗利率を維持しています。
クラウド事業の売上高は517億円、営業利益は160億円、営業利益率は31.0%でした。IT人材事業の売上高は85億円、営業利益は13億円、営業利益率は15.5%でした。2027年3月期以降はIT人材事業が連結対象外となるため、ラクスはクラウド事業中心の会社として見る必要があります。
クラウド事業のサービス別売上では、楽楽精算が207億円、楽楽明細が130億円、楽楽販売が71億円、楽楽勤怠が20億円、楽楽自動応対が34億円、メール配信が41億円、その他が12億円でした。楽楽精算が最大ですが、楽楽明細や楽楽販売も大きな柱になっています。
キャッシュフローでは、2026年3月期の営業キャッシュフローが133億円、投資キャッシュフローが28億円の支出、フリーキャッシュフローが105億円でした。財務キャッシュフローは80億円の支出で、自己株式取得や配当が含まれます。ソフトウェアSaaS企業として、設備投資が重くないことがキャッシュ創出力を支えています。
2027年3月期の会社計画では、売上高597億円、営業利益205億円、営業利益率34.3%、親会社株主に帰属する当期純利益252億円を見込んでいます。売上高はIT人材事業の譲渡で前期比1.0%減ですが、クラウド事業は前期比15.3%増の計画です。年間配当は8円を予定し、15期連続の増配を見込んでいます。
今後の注目ポイント
今後の第一の注目ポイントは、クラウド事業のオーガニック成長です。新中期経営計画では、クラウド事業の売上CAGR15%以上を掲げています。IT人材事業譲渡後は、連結売上の見かけよりも、クラウド事業単体の成長率を見ることが重要です。
第二の注目ポイントは、楽楽明細の成長鈍化への対応です。インボイス制度や電子帳簿保存法対応による需要は一巡し、獲得難易度が上がっています。楽楽明細が高成長を維持できるか、あるいは楽楽請求、楽楽電子保存、楽楽販売との連携で単価を上げられるかが焦点です。
第三の注目ポイントは、クロスセル戦略です。ラクスは、従来のベストオブブリード戦略を進化させ、複数プロダクト導入を促す統合型ベストオブブリード戦略へ進もうとしています。1社あたり導入商材数、プロダクト横断のトスアップ、NRRが社内KPIとして重要になります。外部開示は限定的ですが、今後の説明資料で注視したい部分です。
第四の注目ポイントは、AI戦略です。ラクスはCAIOを新設し、AI機能の高速実装、社内活用、AIネイティブプロダクト開発を進めます。AIによってARPU向上、解約率抑制、正社員1名あたり売上3,000万円以上を実現できるかが重要です。
第五の注目ポイントは、M&Aと株主還元です。ラクスは新中期計画で、M&AやAIネイティブプロダクト開発に資金を振り向ける方針です。同時に、総還元性向20%以上、累進配当、追加還元の可能性も示しています。成長投資と株主還元のバランスが、今後の資本政策の焦点になります。
投資対象として
ラクスを投資対象として見る場合、同社は「中小・中堅企業向けバックオフィスSaaSの高収益企業」と整理できます。成熟した楽楽精算が利益を生み、楽楽明細や楽楽販売が成長を牽引し、楽楽勤怠や楽楽人事労務などが次の領域を広げる構造です。
ポジティブに見るなら、ラクスには強いストック収益があります。クラウド事業ARRは500億円を超え、ストック売上高比率は9割超です。売上総利益率は高く、広告宣伝費や人件費を適切に管理できれば営業利益率は大きく上がります。2027年3月期は営業利益率34.3%を計画しており、収益性重視のクオリティグロースへ移行しています。
また、IT人材事業の譲渡によって、事業の焦点が明確になりました。今後はクラウド事業の成長、AI機能、クロスセル、エンタープライズ展開、M&Aが評価の中心になります。財務基盤も強く、営業キャッシュフローの創出力があります。
一方で、慎重に見るべき点もあります。主力市場の成熟、競争激化、楽楽明細の新規獲得難易度上昇、広告宣伝費の効率、エンタープライズ進出の難しさ、AIによる競争環境の変化には注意が必要です。高収益企業として評価されるほど、市場は成長率と利益率の両方を求めます。どちらかが期待を下回れば、株価評価は変わりやすくなります。
投資家は、連結売上だけでなく、クラウド事業売上、クラウド事業ARR、サービス別売上、営業利益率、広告宣伝費、正社員1名あたり売上、営業キャッシュフロー、M&A、株主還元を確認する必要があります。2027年3月期は、IT人材事業譲渡の影響で前年比の見え方が変わるため、クラウド事業の実力を分けて見ることが重要です。
まとめ
ラクスは、2000年にアイティーブーストとして設立され、メールディーラー、配配メール、楽楽販売、楽楽精算を経て、現在の楽楽クラウドへ成長してきたSaaS企業です。経費精算、請求書発行、販売管理、勤怠管理、電子保存、問い合わせ対応、メールマーケティングなど、企業のバックオフィス業務をクラウドで効率化しています。
ラクス ビジネスモデルの特徴は、月額課金型のSaaSを積み上げることです。2026年3月期は、売上高602億円、営業利益173億円、営業利益率28.8%でした。クラウド事業だけでは、売上高517億円、営業利益160億円、営業利益率31.0%です。クラウド事業ARRは500億円を超え、ストック売上高比率も高水準です。
一方で、国内SaaS市場は成熟化しつつあります。楽楽精算は強いブランドを持つものの、市場成熟に対応する必要があります。楽楽明細は制度改正需要の一巡後、獲得難易度が上がっています。今後は、クロスセル、エンタープライズ展開、AI機能、M&A、楽楽人事労務などの新領域が重要になります。
就活生にとって、ラクスは、BtoB SaaS、経理DX、販売管理、勤怠管理、カスタマーサクセス、テレビCMを使ったマーケティング、AI機能開発、エンタープライズ営業に関われる会社です。個人投資家にとっては、売上成長だけでなく、ARR、ストック売上比率、営業利益率、広告宣伝費、クロスセル、キャッシュフロー、株主還元を見るべき企業です。
ラクスは、単に業務ソフトを売る会社ではありません。企業の中に残る紙、Excel、手作業、メール対応、承認作業を一つずつ「楽」にし、それを継続課金のSaaSとして積み上げてきた会社です。その強いバックオフィスSaaS基盤を、AIとクロスセルとエンタープライズ展開でさらに広げられるか。そこが、ラクス 企業研究の最大のポイントになります。