キリンホールディングスを一言でいうと
キリンホールディングスを一言でいうと、「ビール会社を出発点に、発酵・バイオ技術を軸として、酒類、飲料、医薬、ヘルスサイエンスを束ねる企業」です。
キリンと聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは「キリン一番搾り」や「本麒麟」、「午後の紅茶」、「生茶」かもしれません。確かに、キリンは日本を代表する酒類・飲料メーカーです。しかし現在のキリンホールディングスを理解するには、単なるビール会社、清涼飲料会社として見るだけでは不十分です。
キリンの特徴は、祖業であるビールづくりから発展した発酵・バイオ技術を、酒類や飲料だけでなく、医薬、健康食品、サプリメント、免疫ケアなどへ広げている点にあります。協和キリンを通じた医薬事業、協和発酵バイオ、Blackmores、FANCLを含むヘルスサイエンス事業は、アサヒやサントリーとは異なるキリン独自の企業像を作っています。
つまり、キリンホールディングスの企業研究では、「酒類・飲料の会社」と「医薬・ヘルスサイエンスを持つ会社」の両方を同時に見る必要があります。国内のビール市場は成熟しています。清涼飲料も価格競争が激しい市場です。その中でキリンは、発酵・バイオ、免疫、健康、医薬を組み合わせることで、長期的な成長領域を作ろうとしています。
投資家にとっては、国内酒類・飲料の安定収益、協和キリンの医薬品収益、FANCLやBlackmoresを含むヘルスサイエンスの成長性、原材料費や為替、医薬品の研究開発リスクをどう見るかが重要です。就活生にとっては、ビールや飲料のマーケティングだけでなく、研究、発酵、バイオ、医薬、健康食品、海外事業まで視野に入る会社です。
なぜ今キリンホールディングスを見るのか
今キリンホールディングスを見る意味は、同社が「酒類・飲料メーカー」から「食と健康をまたぐ企業」へ変わろうとしているからです。
日本国内の酒類市場は、長期的には厳しい環境にあります。人口減少、若年層の酒離れ、健康志向、飲酒機会の減少により、ビール類の数量成長は簡単ではありません。ビール、発泡酒、新ジャンルの酒税改正は市場構造を変えていますが、酒類そのものを大量に伸ばす時代ではありません。
清涼飲料も競争が激しい市場です。コンビニ、スーパー、自動販売機、ドラッグストア、ECで多くの商品が並び、価格競争や販促競争が起きやすい。猛暑が追い風になることもありますが、原材料費、物流費、ペットボトル、アルミ缶、糖類、コーヒー豆、茶葉などのコスト上昇も利益を圧迫します。
その中でキリンが重視しているのが、ヘルスサイエンスと医薬です。2024年にはFANCLを連結子会社化し、キリンは従来の酒類・飲料に加えて、化粧品、健康食品、サプリメント、通販顧客基盤を本格的に取り込みました。さらに、Blackmoresを通じてオーストラリアやアジアのサプリメント市場にも関わっています。
キリンは長期経営構想「Innovate2035!」で、酒類、飲料・ヘルスサイエンス、医薬を組み合わせ、生活者の行動変容を促す企業になることを掲げています。これは単なるスローガンではありません。ビールで培った発酵技術、協和発酵由来のバイオ技術、協和キリンの医薬品開発、FANCLのD2C・通販・健康食品・化粧品を組み合わせることで、従来の飲料会社とは違う成長モデルを作ろうとしているのです。
投資家にとっては、この変化が本当に利益とキャッシュフローにつながるかが重要です。ヘルスサイエンスは成長余地がある一方、買収投資やブランド投資、研究開発、在庫、マーケティング費用が必要です。医薬事業は高収益になり得ますが、新薬開発や薬価、特許、海外販売のリスクもあります。キリンは安定した飲料・酒類会社であると同時に、医薬・健康領域のリスクも抱える会社になっています。
成り立ち
キリンの歴史は、明治時代のビール事業から始まります。日本に近代的なビール文化が広がる中で、キリンはビールメーカーとして成長してきました。キリンビールは長く国内ビール市場で強い存在感を持ち、「キリンラガービール」は日本のビール文化を代表するブランドの一つになりました。
その後、国内ビール市場ではアサヒスーパードライの登場により競争環境が大きく変わります。キリンは一時、ビール市場での圧倒的地位を揺さぶられましたが、「一番搾り」や「本麒麟」などの商品を育て、ビール類市場で存在感を維持してきました。キリンの歴史は、ビール市場の王者としての時代と、強力な競合に対抗しながらブランドを再構築してきた時代の両方を含みます。
キリンのもう一つの重要な歴史は、協和発酵との関係です。協和発酵は、発酵・バイオ技術を背景に、アミノ酸、医薬、バイオケミカルなどへ展開してきた企業です。キリンは協和発酵との経営統合を通じて、医薬やバイオ技術をグループに取り込みました。現在の協和キリンは、医薬事業の中核として、腎、がん、免疫・アレルギー、中枢神経などの領域で医薬品を展開しています。
飲料事業では、キリンビバレッジが「午後の紅茶」「生茶」「FIRE」「世界のKitchenから」「おいしい免疫ケア」などを展開してきました。午後の紅茶は、紅茶飲料の代表的ブランドとして長く支持され、生茶は緑茶飲料市場で競争を続けています。清涼飲料は酒類と違い、子どもから高齢者まで幅広い層に接点を持つため、キリンの消費者接点を広げる役割があります。
近年の大きな転機は、ヘルスサイエンス事業の拡大です。プラズマ乳酸菌を活用した「iMUSE」「おいしい免疫ケア」、オーストラリアのBlackmores、そしてFANCLの完全子会社化により、キリンは健康食品・サプリメント・化粧品・D2Cの領域へ本格的に踏み込みました。これにより、キリンは「飲む」「食べる」だけでなく、「健康を支える」企業としての色を強めています。
事業内容
キリンホールディングスの事業は、大きく酒類、飲料、医薬、ヘルスサイエンスに分けて見ると理解しやすいです。
酒類事業では、キリンビールが中心です。主力ブランドには「キリン一番搾り」「本麒麟」「淡麗」「氷結」「キリンウイスキー」「陸」などがあります。ビール、発泡酒、新ジャンル、RTD、ウイスキー、ワイン、スピリッツなど、酒類全般を扱います。家庭用の缶・瓶商品だけでなく、飲食店向けの業務用ビールも重要です。飲食店で飲まれる生ビールは、ブランド体験の場でもあります。
海外酒類では、Lionがオーストラリアやニュージーランドを中心にビール・酒類を展開しています。また、米国クラフトビール関連の事業や、Four Rosesなどのウイスキー事業も含まれてきました。海外酒類は、国内市場の成熟を補う意味がありますが、地域ごとの市場環境やブランド戦略が重要です。
飲料事業では、キリンビバレッジが清涼飲料を展開します。「午後の紅茶」「生茶」「FIRE」「世界のKitchenから」「おいしい免疫ケア」などが代表的です。また、米国ではCoke Northeastを通じて、コカ・コーラ製品のボトラー事業も行っています。飲料事業は、売上規模が大きい一方、価格競争や物流費の影響を受けやすい事業です。
医薬事業は、協和キリンが担います。協和キリンはバイオ医薬品を含む医療用医薬品を展開し、グローバルに販売しています。医薬事業は、酒類・飲料と比べて利益率が高くなりやすい一方、研究開発費、臨床試験、承認、薬価、特許、競合薬の影響を受けます。キリン全体の中で、医薬は非常に重要な利益源です。
ヘルスサイエンス事業では、FANCL、Blackmores、協和発酵バイオ、プラズマ乳酸菌関連商品などが含まれます。FANCLは化粧品、健康食品、サプリメント、通販顧客基盤を持ちます。Blackmoresはオーストラリア発のサプリメントブランドで、アジア太平洋地域での展開が重要です。協和発酵バイオは、アミノ酸や機能性素材などの技術基盤を持っています。
このように、キリンは消費者向け飲料メーカーでありながら、医療用医薬品や健康食品も持つ企業です。ここが、アサヒやサントリー食品インターナショナルと大きく異なる点です。
収益構造
キリンホールディングスの収益構造は、酒類・飲料の安定的な売上と、医薬・ヘルスサイエンスの高付加価値領域を組み合わせたものです。
酒類事業は、国内で強いブランドを持つ一方、数量成長は難しい市場です。ビール類では、一番搾りや本麒麟、氷結などのブランドが売上を支えます。酒税改正によりビールと新ジャンルの価格差が変わる中で、ビールブランドをどう強化するかが重要です。酒類はブランドが強ければ価格改定を受け入れてもらいやすい一方、健康志向や節約志向の影響も受けます。
飲料事業は、売上規模が大きいものの、利益率の管理が難しい事業です。午後の紅茶、生茶、FIRE、おいしい免疫ケアなどのブランドは強いですが、清涼飲料市場は競争が激しく、販促費や物流費がかかります。猛暑や季節性で販売数量が変わりやすく、ペットボトルやアルミ缶、糖類、茶葉、コーヒー豆などの原材料価格にも影響されます。
医薬事業は、キリン全体の利益構造を支える重要な柱です。協和キリンは、医薬品の販売収益や技術ライセンス収入によって大きな利益を生み出します。2025年実績では、医薬事業の事業利益は1,023億円と大きく、酒類事業に次ぐ規模の利益源になっています。これは、キリンを単なる飲料会社として見ると見落としやすい点です。
ヘルスサイエンス事業は、近年大きく変化した領域です。2025年実績では、FANCLの年間寄与や協和発酵バイオの黒字化により、ヘルスサイエンス事業は黒字化しました。FANCL、Blackmores、協和発酵バイオ、免疫ケア関連商品をどう成長させるかが、今後の重要な論点です。ヘルスサイエンスは、酒類・飲料よりも健康志向の長期トレンドに乗りやすい一方、ブランド投資や研究開発、海外展開の難しさもあります。
2025年12月期のキリンホールディングスは、売上収益2兆4,334億円、事業利益2,518億円でした。セグメント別では、酒類の事業利益が1,354億円、飲料が677億円、医薬が1,023億円、ヘルスサイエンスが111億円でした。全社費用を差し引くため単純合計は全社利益と一致しませんが、酒類・医薬が大きな利益柱であり、飲料とヘルスサイエンスがそれを補完する構造が見えます。
事業内容の特徴
キリンの事業内容の特徴は、「発酵・バイオ技術」と「生活者接点」の組み合わせにあります。
ビールづくりは、麦芽、ホップ、水、酵母を使った発酵の技術です。キリンは、この発酵の知見を長年蓄積してきました。さらに、協和発酵との関係により、発酵・バイオ技術は医薬、アミノ酸、機能性素材へと広がりました。キリンが「食から医にわたる領域」を掲げる背景には、単なる事業多角化ではなく、技術的な連続性があります。
もう一つの特徴は、生活者との広い接点です。酒類、清涼飲料、健康食品、化粧品、サプリメントは、消費者が日常的に選ぶ商品です。一方、医薬品は患者や医療機関に届く商品です。キリンは、楽しい、うれしい、おいしいという情緒価値と、健康、予防、治療という機能価値の両方を扱おうとしています。
この構造は、他の飲料会社と比べて独特です。アサヒはスーパードライと海外ビールに強みがあります。サントリーは洋酒、プレミアム飲料、食品・飲料ブランドに強みがあります。キリンは、発酵・バイオを起点に、酒類・飲料・医薬・ヘルスサイエンスをまたぐ点が特徴です。
ただし、この広がりは経営の難しさも伴います。酒類・飲料は消費財ビジネスであり、広告、ブランド、価格、物流、小売店との関係が重要です。医薬は研究開発、臨床、薬価、特許、規制が重要です。ヘルスサイエンスは、D2C、通販、サプリメント規制、健康食品の信頼性、化粧品ブランドが重要です。異なる事業を一つのグループで運営するには、事業ごとの専門性と、共通する技術・顧客理解の両方が必要になります。
競合他社との違い
キリンホールディングスの国内酒類での競合は、アサヒグループホールディングス、サントリー、サッポロホールディングスです。
アサヒとの違いは、海外ビールへの軸足と医薬・ヘルスサイエンスの有無です。アサヒはスーパードライを中心に、欧州・オセアニアのプレミアムビール事業を大きく拡大してきました。グローバルビール企業としての色が強い会社です。一方、キリンは海外酒類も持つものの、協和キリンの医薬事業とFANCL・Blackmoresを含むヘルスサイエンスが大きな違いです。キリンは「酒類・飲料・医薬・健康」のポートフォリオ企業として見るべき会社です。
サントリーとの違いは、医薬の有無と上場構造です。サントリーグループは、ビール、ウイスキー、ワイン、清涼飲料に強く、特にウイスキーやプレミアム飲料のブランド力があります。上場しているサントリー食品インターナショナルは清涼飲料中心で、酒類は非上場のサントリーホールディングス側です。キリンホールディングスは、酒類、飲料、医薬、ヘルスサイエンスを上場会社として一体的に持つ点が違います。
サッポロとの違いは、事業規模とポートフォリオです。サッポロは黒ラベル、ヱビス、不動産など独自の強みを持ちますが、キリンは酒類・飲料・医薬・ヘルスサイエンスを含む規模と幅で上回ります。
飲料事業では、サントリー食品、コカ・コーラボトラーズジャパン、伊藤園、アサヒ飲料などが競合です。キリンビバレッジは、午後の紅茶、生茶、FIRE、免疫ケア飲料を持ちます。特に午後の紅茶と生茶は定番ブランドですが、茶系・コーヒー・炭酸・機能性飲料では競争が非常に激しい市場です。
医薬では、協和キリンは国内外の製薬会社と競合します。武田薬品、第一三共、中外製薬、アステラス製薬、海外のバイオ医薬企業などが比較対象になります。飲料会社の一部門として見るのではなく、医薬品の研究開発とグローバル販売を行う企業として評価する必要があります。
ヘルスサイエンスでは、FANCL、Blackmoresを通じて、DHC、サントリーウエルネス、ネスレ、国内外のサプリメント・化粧品会社と競合します。健康食品は成長市場ですが、ブランド信頼、科学的根拠、販売チャネルが競争力になります。
事業の現代での潮流
キリンホールディングスを取り巻く潮流は、健康志向、アルコール離れ、機能性表示食品、医薬品のグローバル競争、原材料高、為替です。
健康志向は、酒類メーカーにとって逆風であり、成長機会でもあります。飲酒量を減らす人が増えれば、ビール類の数量には逆風です。しかし、ノンアルコール・低アルコール、糖質オフ、機能性飲料、免疫ケア、サプリメント、健康食品には追い風になります。キリンは酒類を持ちながら、健康領域へ広げているため、この変化を取り込む余地があります。
アルコール離れは、特に若年層で進んでいます。キリンにとって、一番搾りや本麒麟のブランドを維持するだけでなく、飲まない人や少しだけ飲む人への商品提案が重要になります。酒類事業を続ける以上、適正飲酒や社会的責任も無視できません。
機能性表示食品や免疫ケアは、キリンらしい成長テーマです。プラズマ乳酸菌を使ったiMUSEやおいしい免疫ケアは、飲料とヘルスサイエンスの接点にある商品です。単なる清涼飲料ではなく、健康価値を持つ飲料として差別化できます。ただし、機能性市場では科学的根拠、消費者理解、継続購入、価格の受容性が重要です。
医薬品では、グローバル競争が激しくなっています。協和キリンは、高付加価値の医薬品を持つ一方、研究開発リスク、特許切れ、薬価改定、競合薬の登場に直面します。医薬事業は利益貢献が大きいだけに、パイプラインや主力品の成長が全社業績に影響します。
原材料高と為替も重要です。酒類・飲料では、麦芽、ホップ、アルミ缶、ペットボトル、糖類、茶葉、コーヒー豆、エネルギー、物流費が影響します。円安は輸入コストを押し上げる一方、海外事業の円換算にはプラスに働くこともあります。価格改定と数量維持のバランスが重要です。
強み
キリンホールディングスの強みは、第一に発酵・バイオ技術の蓄積です。ビール事業で培った発酵技術と、協和発酵・協和キリンを通じたバイオ技術が、酒類、飲料、医薬、ヘルスサイエンスをつなぐ基盤になっています。単なるブランド多角化ではなく、技術に一定の連続性がある点は大きな特徴です。
第二に、酒類・飲料の強いブランドです。一番搾り、本麒麟、氷結、午後の紅茶、生茶、FIREなど、日常的に買われるブランドを持っています。消費財ではブランドが価格改定や棚取り、継続購入に直結します。キリンは国内で強い消費者接点を持っています。
第三に、医薬事業の利益貢献です。協和キリンはキリングループ全体の中で大きな利益を生み出す存在です。飲料・酒類だけでは得にくい高付加価値の収益源であり、キリンの企業価値を考えるうえで欠かせません。
第四に、ヘルスサイエンスの成長基盤です。FANCLの完全子会社化、Blackmores、協和発酵バイオ、プラズマ乳酸菌関連商品により、健康食品・サプリメント・化粧品・機能性飲料の領域で成長を狙えます。特にFANCLは通販顧客基盤とブランドを持つため、キリンの飲料・素材技術と組み合わせる余地があります。
第五に、CSV経営の一貫性です。キリンは、健康、コミュニティ、環境、酒類メーカーとしての責任を含むCSVを掲げています。これは単なる社会貢献ではなく、健康領域への事業拡大や適正飲酒、環境対応と結びついています。企業理念と事業戦略をつなげようとしている点は、長期的なブランド価値にも関わります。
弱み・リスク
キリンホールディングスのリスクでまず挙げられるのは、国内酒類市場の縮小です。人口減少、若年層の酒離れ、健康志向により、ビール類の数量成長は難しくなっています。ブランド力で単価を上げても、数量減を完全に補えるとは限りません。
第二に、事業ポートフォリオの複雑さです。酒類、飲料、医薬、ヘルスサイエンスは、それぞれビジネスモデルが違います。消費財、医薬品、健康食品、化粧品、海外事業を一つのグループで運営するには、高度な経営管理が必要です。多角化が強みになる一方、焦点がぼやけるリスクもあります。
第三に、医薬事業のリスクです。協和キリンは大きな利益源ですが、医薬品には研究開発失敗、承認遅延、薬価引き下げ、特許切れ、副作用、競合薬登場のリスクがあります。医薬事業が好調な時は全社利益を押し上げますが、不調時の影響も大きくなります。
第四に、FANCL買収後の統合リスクです。FANCLはブランド、通販顧客、化粧品、健康食品に強みがありますが、キリングループと完全に一体化するには時間がかかります。買収価格に見合うシナジーが出るか、ブランドの独自性を損なわずに成長できるかが重要です。
第五に、原材料費と為替です。飲料・酒類では、アルミ缶、ペットボトル、麦芽、ホップ、糖類、茶葉、コーヒー豆、エネルギー、物流費が影響します。価格改定をしても消費者が受け入れなければ数量が落ちます。海外事業では為替影響も大きくなります。
数字で見るキリンホールディングス
キリンホールディングスを見るうえで、まず確認したいのは売上収益と事業利益です。2025年12月期の売上収益は2兆4,334億円、事業利益は2,518億円でした。営業利益は2,097億円で、前年から大きく増加しました。FANCLの連結子会社化、医薬事業の技術ライセンス収入、ヘルスサイエンスの黒字化が大きな要因です。
セグメント別の事業利益を見ると、酒類は1,354億円、飲料は677億円、医薬は1,023億円、ヘルスサイエンスは111億円でした。ここから分かるのは、キリンの利益構造では酒類と医薬が大きな柱であり、飲料は売上規模に対して利益率の改善が課題、ヘルスサイエンスはようやく黒字化した成長領域だということです。
酒類の中では、キリンビールが増益に貢献しています。ブランド構成の見直しや価格改定、費用管理が利益改善に効いています。一方、海外酒類では地域やブランドによって強弱があります。Lion、米国クラフト、Four Rosesなどは、それぞれ違う市場環境を持つため、単純に海外酒類全体で見るだけでは不十分です。
飲料では、キリンビバレッジとCoke Northeastが重要です。午後の紅茶、生茶、免疫ケア飲料などの国内ブランドと、米国ボトラー事業の採算を分けて見る必要があります。飲料は売上規模が大きい一方で、物流費や販促費の影響を受けやすいため、利益率改善が重要です。
ヘルスサイエンスでは、FANCLの年間寄与、Blackmores、協和発酵バイオの黒字化が焦点です。2026年予想では、FANCLの売上収益が1,319億円へ伸びる見込みであり、ヘルスサイエンス事業全体の成長が期待されています。
投資家が見るべき指標は、事業利益率、ROIC、セグメント別利益、医薬パイプライン、FANCLの成長、ヘルスサイエンスの黒字定着、営業キャッシュフロー、有利子負債、株主還元です。売上規模だけでなく、どの事業が利益を稼ぎ、どの事業に投資しているのかを確認することが重要です。
今後の注目ポイント
今後の注目ポイントは、まずヘルスサイエンス事業の成長です。FANCL、Blackmores、協和発酵バイオ、プラズマ乳酸菌をどう組み合わせるかが重要です。FANCLの通販顧客基盤とキリンの素材・研究開発力、飲料チャネルが結びつけば、他社にはない健康領域の事業モデルを作れる可能性があります。
第二に、医薬事業の持続性です。協和キリンの主力医薬品、技術ライセンス収入、研究開発パイプラインが全社利益に大きく影響します。医薬は利益率が高い一方、変動も大きいため、単年度の好調だけでなく、継続的な新薬創出力を見る必要があります。
第三に、国内酒類のブランド再強化です。一番搾り、本麒麟、氷結などのブランドを、酒税改正後の市場でどう育てるかが重要です。ビール回帰、RTD、ノンアルコール・低アルコール、適正飲酒の流れをどう取り込むかが問われます。
第四に、飲料事業の収益性改善です。午後の紅茶、生茶、免疫ケア飲料などの強化により、価格競争に巻き込まれすぎず、利益を残せる体質にできるかが焦点です。特に免疫ケア飲料は、キリンらしい差別化領域として重要です。
第五に、資本効率です。キリンはROICを重視しており、2035年に向けてROIC10%以上を目標に掲げています。FANCL買収やヘルスサイエンス投資が本当に資本効率を高めるか、医薬事業のキャッシュを成長投資と株主還元にどう配分するかが投資家の注目点になります。
投資対象として
投資対象としてのキリンホールディングスは、「国内酒類・飲料の安定性」と「医薬・ヘルスサイエンスの成長性」を併せ持つ会社です。
魅力は、強い国内ブランド、医薬事業の利益貢献、FANCLを含むヘルスサイエンスの成長余地、発酵・バイオ技術の蓄積です。飲料・酒類は日常消費財として一定の安定性があり、医薬は高付加価値の利益源になります。ヘルスサイエンスが黒字化し、成長事業として育てば、従来の飲料会社とは違う評価を受ける可能性があります。
一方で、注意点もあります。国内酒類市場は縮小傾向であり、飲料は競争が激しい。医薬は研究開発や薬価リスクを抱え、ヘルスサイエンスは買収後の統合とブランド育成が必要です。FANCL買収が期待通りのシナジーを生むかどうかは、長期投資家にとって重要な論点です。
株価を見る際には、PERやPBRだけでなく、セグメント別事業利益、ROIC、医薬パイプライン、FANCLの売上・利益、ヘルスサイエンスの黒字継続、国内酒類の数量・単価、飲料の利益率、営業キャッシュフロー、株主還元を確認したいところです。
就活生にとっては、キリンは身近な商品を扱うだけでなく、研究・医薬・ヘルスサイエンスにも広がる会社です。ビールや飲料のマーケティングに関わりたい人だけでなく、発酵、バイオ、健康食品、医薬、品質保証、海外事業、D2Cに関心がある人にも選択肢があります。ただし、事業領域が広い分、自分がどの領域で働きたいのかを明確にして企業研究することが重要です。
まとめ
キリンホールディングスは、ビールを祖業とする飲料・食品企業でありながら、現在は医薬とヘルスサイエンスまで含むユニークな事業ポートフォリオを持つ会社です。一番搾り、本麒麟、午後の紅茶、生茶といった身近なブランドに加え、協和キリンの医薬事業、FANCLやBlackmoresを含む健康領域が成長戦略の中心になっています。
同社の強みは、発酵・バイオ技術、国内酒類・飲料ブランド、医薬事業の利益貢献、ヘルスサイエンスの成長基盤、CSV経営の一貫性です。特に、酒類・飲料・医薬・ヘルスサイエンスを組み合わせる企業は日本でも珍しく、キリン独自の企業像を作っています。
一方で、リスクもあります。国内酒類市場の縮小、飲料市場の価格競争、医薬の研究開発リスク、FANCL買収後の統合、原材料費と為替の影響です。多角化は強みであると同時に、経営の複雑さにもなります。
個人投資家にとっては、キリンは「安定した酒類・飲料企業」ではなく、「医薬とヘルスサイエンスを成長軸に加えたポートフォリオ企業」として見るべき会社です。就活生にとっては、身近な商品と先端的な研究・健康領域がつながる会社です。キリンホールディングスの企業研究では、「ビールの会社」という印象にとどまらず、「発酵・バイオを軸に食と健康をまたぐ企業」として見ることが大切です。