大日本印刷を一言でいうと
大日本印刷は、出版印刷や商業印刷を出発点に、現在では情報セキュリティ、BPO、決済・カード、マーケティング、フォトイメージング、包装、建装材、リチウムイオン電池用バッテリーパウチ、太陽電池関連部材、ディスプレイ用光学フィルム、半導体関連部材まで展開する総合ものづくり企業です。
一般には「印刷会社」という印象が強いかもしれません。しかし、企業研究として見るなら、大日本印刷は単に本やチラシを刷る会社ではありません。印刷で培った精密加工、色再現、情報処理、セキュリティ、材料加工、大量生産の技術を、情報サービス、生活資材、電子部材へ広げてきた会社です。
大日本印刷 ビジネスモデルの特徴は、紙の印刷物だけに依存せず、スマートコミュニケーション、ライフ&ヘルスケア、エレクトロニクスという三つの事業領域で収益を作っていることです。スマートコミュニケーションでは、BPO、認証・セキュリティ、決済カード、フォトイメージング、出版・教育、マーケティング支援を扱います。ライフ&ヘルスケアでは、包装、建装材、モビリティ用部材、リチウムイオン電池用バッテリーパウチ、医療・ヘルスケア関連を扱います。エレクトロニクスでは、ディスプレイ用光学フィルム、メタルマスク、フォトマスク、リードフレームなどを扱います。
この会社の固有性は、「印刷」という言葉を広く捉えている点にあります。印刷とは、情報を紙に載せるだけではなく、微細な模様をつくること、素材の表面に機能を与えること、大量のデータを安全に処理すること、偽造されにくい証明物をつくること、薄いフィルムに光学・バリア・加飾機能を持たせることでもあります。そのため、大日本印刷は、紙メディアの縮小という逆風を受けながらも、情報、包装、エレクトロニクスへ事業を移してきました。
なぜ今大日本印刷を見るのか
今、大日本印刷を見る理由は、同社が「印刷会社から脱却する」という段階を超えて、どの事業に資本を集中し、どの事業を構造改革するかが明確になってきたからです。
印刷業界は、長期的には紙の需要減少と向き合っています。出版物、紙のカタログ、チラシ、ビジネスフォーム、紙帳票は、デジタル化によって減りやすい領域です。企業の広告も、紙からWeb、アプリ、SNS、動画、データ活用へ移っています。印刷会社が昔のまま紙の印刷数量に頼っていたら、成長は難しくなります。
一方で、DNPが持つ技術や顧客基盤は、デジタル時代にも使えます。行政や金融機関の本人確認、ICカード、決済、BPO、個人情報の安全な処理、企業のマーケティング支援、電子書籍、デジタルアーカイブ、XR、フォトプリント、パッケージ、半導体部材は、印刷会社の歴史と地続きです。紙が減っても、情報を安全に扱う需要、商品を包む需要、電子部品を高精度に作る需要は残ります。
2026年3月期の大日本印刷は、売上高1兆5,125億円、営業利益1,010億円、経常利益1,192億円、親会社株主に帰属する当期純利益1,039億円を計上しました。営業利益率は6.7%です。スマートコミュニケーションとライフ&ヘルスケアが伸び、全体では増収増益となりました。一方で、エレクトロニクスは半導体関連の先行投資やディスプレイ関連の影響もあり、減益となっています。
さらに、同社は2026年度から2028年度までの新中期経営計画で、2028年度に営業利益1,300億円、ROE9%を目指しています。その先の2031年度には、営業利益1,500億円以上、ROE10%を目標にしています。これは、単に売上規模を守る計画ではなく、資本効率を高め、事業ポートフォリオを変える計画です。
つまり、今の大日本印刷を見るポイントは、印刷需要の縮小にどう耐えるかではありません。情報セキュア、フォトイメージング、包装、モビリティ・産業用高機能材、エレクトロニクスといった領域で、どれだけ利益率を高められるかです。就活生にとっては、印刷だけでなくDX、BPO、認証、包装、材料、半導体に関われる会社です。個人投資家にとっては、事業転換と資本効率改善の実行力を見るべき企業です。
成り立ち
大日本印刷の歴史は、1876年に創業した秀英舎にさかのぼります。明治期の日本では、印刷は近代化を支える重要な産業でした。新聞、書籍、教科書、証券、行政文書、商業印刷は、情報を広く伝えるために欠かせません。秀英舎は、日本の近代出版や活版印刷の発展とともに歩んできました。
1907年には日清印刷が創業しました。1935年に秀英舎と日清印刷が合併し、大日本印刷が発足します。つまり、大日本印刷は、明治期から続く印刷技術と、昭和初期に統合された大規模印刷会社としての歴史を持っています。社名に「大日本」とあるように、日本の近代印刷を代表する会社の一つとして成長してきました。
戦後には、日本銀行券の印刷、証券印刷、紙器印刷、包装、ビジネスフォーム、カタログ、出版物など、社会インフラに近い領域を担いました。印刷会社は、単に紙を刷るだけでなく、偽造防止、正確な大量処理、納期管理、色やデザインの再現、個人情報の取り扱いを必要とします。この信頼性が、後の情報セキュリティやカード事業につながります。
1950年代以降、大日本印刷は印刷技術を紙以外へ広げていきました。ビニール、セロハン、布地、メラミン化粧板、包装材、鋼板、紙カップ、ラミネートチューブなど、さまざまな素材に印刷・加工を行うようになります。ここから、現在の包装、建装材、産業用高機能材の源流が生まれました。
さらに、1950年代後半から1960年代にかけて、カラーテレビ用部材、フォトマスク、リードフレームなど、エレクトロニクス領域へ進出しています。印刷で培った微細加工やパターン形成の技術が、電子部材に応用されました。このように、大日本印刷は、出版印刷から始まった会社でありながら、早い時期から素材・電子部品・情報処理へ広がっていた会社です。
事業内容
大日本印刷の事業は、現在は主にスマートコミュニケーション部門、ライフ&ヘルスケア部門、エレクトロニクス部門の三つに分けられます。
スマートコミュニケーション部門は、同社最大の売上規模を持つ部門です。ここには、情報セキュア関連、BPO、認証・セキュリティ、決済・カード、マーケティング、出版・教育、フォトイメージング、XR、コンテンツ関連などが含まれます。従来の印刷会社のイメージに近い出版印刷もありますが、現在の中心は、情報を安全に扱うサービスへ移っています。
たとえば、金融機関の通知物、自治体の事務処理、カード発行、本人確認、企業のキャンペーン運営、写真プリント、電子図書館、教育ICT、デジタルアーカイブなどは、紙とデジタルの両方をまたぐ領域です。大日本印刷は、大量の個人情報を安全に処理し、必要に応じて紙・カード・デジタルデータとして届ける運用力を持っています。
ライフ&ヘルスケア部門では、包装、産業用高機能材、モビリティ用部材、建装材、医療・ヘルスケア、飲料事業などを扱います。包装では、食品や日用品向けのパッケージ、環境対応包材、無菌充填システムなどがあります。産業用高機能材では、リチウムイオン電池用バッテリーパウチや太陽電池封止材が重要です。モビリティでは、自動車向けの加飾フィルムや表示部材、建装材では住宅や商業施設向けの化粧材を扱います。
エレクトロニクス部門では、ディスプレイ関連と半導体関連を扱います。ディスプレイ用光学フィルム、メタルマスク、フォトマスク、リードフレーム、半導体パッケージ用部材などが含まれます。売上規模では三部門の中で最も小さいですが、利益率が高く、同社の収益性を支える重要な部門です。
この三部門を見ると、大日本印刷は「印刷・情報サービス」と「製造業」の両方の性格を持つ会社だと分かります。ソフトウェアだけの会社でも、紙印刷だけの会社でも、素材メーカーだけの会社でもありません。情報を扱う力と、素材・部材を精密に加工する力を併せ持つ企業です。
収益構造
大日本印刷の収益構造は、三つの部門でかなり性格が違います。売上規模が大きいのはスマートコミュニケーション、安定性と素材展開を持つのがライフ&ヘルスケア、利益率が高いのがエレクトロニクスです。
2026年3月期のスマートコミュニケーション部門は、外部顧客への売上高7,486億円、セグメント利益400億円でした。BPO、情報セキュア、フォトイメージング、出版・教育、マーケティング関連を含むため、売上規模は最大です。ただし、従来型の出版・商業印刷やビジネスフォームのように縮小圧力を受ける領域もあります。成長領域のBPOや認証セキュリティが、縮小領域を上回って伸びるかが重要です。
ライフ&ヘルスケア部門は、外部顧客への売上高5,120億円、セグメント利益372億円でした。包装、建装材、モビリティ用部材、リチウムイオン電池用バッテリーパウチ、太陽電池封止材、医療・ヘルスケア関連が含まれます。生活に近い安定領域と、EV・再エネ・モビリティに関わる成長領域が混在しています。バッテリーパウチや太陽電池封止材は成長期待がある一方、EV需要や政策変更の影響も受けます。
エレクトロニクス部門は、外部顧客への売上高2,518億円、セグメント利益507億円でした。売上規模は三部門の中で最も小さいですが、利益率は非常に高い部門です。ディスプレイ用光学フィルム、メタルマスク、フォトマスク、リードフレームなどは、微細加工や高品質管理が求められ、差別化が効きやすい領域です。一方で、半導体やディスプレイの市況変動を受けやすく、設備投資負担もあります。
会社全体では、セグメント利益の合計から全社費用や調整額を差し引いた営業利益が1,010億円です。ここで注意すべきなのは、各事業がそれぞれ利益を出していても、全社費用、研究開発、構造改革、設備投資、減価償却が大きいことです。大日本印刷のような複合企業では、売上規模だけでなく、どの部門がどれだけ利益を出し、全社費用をどう吸収しているかを見る必要があります。
2027年3月期の会社予想では、売上高1兆5,300億円、営業利益1,080億円が見込まれています。スマートコミュニケーション部門は売上高7,420億円、営業利益430億円、ライフ&ヘルスケア部門は売上高5,160億円、営業利益390億円、エレクトロニクス部門は売上高2,740億円、営業利益540億円の計画です。エレクトロニクスの利益率の高さが、引き続き全社利益の鍵になります。
事業内容の特徴
大日本印刷の事業内容の特徴は、印刷を「情報処理」と「精密加工」の両面で発展させていることです。
まず、情報処理の面があります。印刷会社は、昔から大量の情報を正確に扱う必要がありました。書籍、雑誌、証券、カード、帳票、通知物、カタログ、ダイレクトメールを扱うには、データの正確性、納期、個人情報管理、偽造防止、品質保証が必要です。この能力が、現在のBPO、認証、セキュリティ、決済カード、データ・プリント・サービスへつながっています。
次に、精密加工の面があります。印刷は、版を作り、インキや機能性材料を均一に載せ、細かなパターンを再現する技術です。この技術は、紙以外の素材にも応用できます。包装材にバリア性を持たせる、建装材に木目や質感を再現する、電池用パウチに機能を持たせる、ディスプレイ用フィルムに光学機能を持たせる、半導体用部材に微細加工を施す。これらはすべて、印刷技術の延長線上にあります。
もう一つの特徴は、BtoB色が強いことです。一般消費者が直接「DNPの商品」として買うものは多くありません。しかし、クレジットカード、IDカード、食品パッケージ、電子部材、建装材、写真プリント、電子書籍サービス、図書館システム、BPOの裏側など、生活の中に大日本印刷の技術は多く入っています。見えにくいが、社会の裏側を支える会社です。
この見えにくさは、企業研究では重要です。消費者向けブランドが強い会社は分かりやすい一方、大日本印刷のような会社は、どこで価値を作っているかが見えにくい。しかし、顧客企業にとっては、情報を安全に扱い、包装や電子部材を安定供給し、業務を効率化する重要なパートナーです。
競合他社との違い
大日本印刷の最大の競合は、TOPPANホールディングスです。両社は日本の印刷業界を代表する二大企業であり、出版・商業印刷、BPO、認証・セキュリティ、包装、建装材、ディスプレイ・半導体関連で競争しています。
TOPPANホールディングスとの違いは、事業ポートフォリオの見え方と強みの出方です。TOPPANは持株会社体制に移行し、情報コミュニケーション、生活・産業、エレクトロニクスの三本柱を再編しながら、海外包装や半導体パッケージ基板へ投資しています。大日本印刷も三部門体制ですが、スマートコミュニケーション、ライフ&ヘルスケア、エレクトロニクスの中で、フォトイメージング、情報セキュア、リチウムイオン電池用バッテリーパウチ、ディスプレイ用光学フィルム、フォトマスクなどの存在感が目立ちます。
王子ホールディングスやレンゴーとの比較では、素材・包装の違いが見えます。王子ホールディングスは紙・パルプ、段ボール原紙、生活消費財、機能材、資源環境ビジネスを持つ素材企業です。レンゴーは段ボールや紙器、軟包装、重包装に強い包装メーカーです。大日本印刷も包装を持ちますが、紙素材そのものより、印刷・ラミネート・バリア・意匠・機能付与に強みがあります。紙や段ボールの素材供給ではなく、包装に情報性や機能性を与える会社です。
IT企業との違いも重要です。大日本印刷はBPOやDX、データ処理を行いますが、オービックのような純粋な基幹システム会社ではありません。大日本印刷の強みは、紙、カード、通知物、本人確認、物流、データ処理、セキュリティを一体で扱えることです。つまり、デジタルだけで完結しない現場業務に強い会社です。
半導体関連では、専業の半導体材料・装置メーカーとは違います。大日本印刷は、フォトマスクやメタルマスク、リードフレーム、ディスプレイ用光学フィルムなど、印刷・微細加工技術を応用した部材に強みを持ちます。半導体そのものを設計する会社ではありませんが、半導体・ディスプレイの製造工程を支える材料・部材企業としての顔があります。
事業の現代での潮流
大日本印刷を取り巻く潮流は、紙媒体の減少、DX・BPO需要、認証・セキュリティ需要、環境対応包装、EV・再エネ、半導体需要、資本効率重視です。
紙媒体の減少は、長期的な逆風です。出版物、雑誌、チラシ、カタログ、紙帳票は、電子化により減りやすい分野です。大日本印刷は出版・教育関連やBPOで新しい需要を取り込んでいますが、従来型の印刷だけで成長することは難しいです。そのため、構造改革が必要になります。
DX・BPO需要は追い風です。企業や自治体は、人手不足、業務効率化、デジタル化、セキュリティ対応に追われています。大量の個人情報を安全に扱い、通知物、カード、審査、入力、発送、データ管理をまとめて受託できる会社には需要があります。大日本印刷のスマートコミュニケーション部門は、この需要を取り込む事業です。
認証・セキュリティ需要も重要です。キャッシュレス決済、本人確認、デジタルID、ICカード、スマートカード、オンライン手続きが広がるほど、セキュリティの重要性は高まります。大日本印刷は、国内トップシェアのICカード事業などを活かして、決済や認証の安全性を支える立場にあります。
環境対応包装も大きなテーマです。食品や日用品メーカーは、プラスチック削減、リサイクル性、食品ロス削減、軽量化、脱炭素に対応する必要があります。大日本印刷の包装技術やバリアフィルムは、こうした需要と結びつきます。王子やレンゴーのような紙・段ボール系企業とは異なり、薄いフィルムや複合素材に機能を持たせる技術が重要になります。
EV・再エネ・半導体は、成長期待と変動リスクが混在します。リチウムイオン電池用バッテリーパウチや太陽電池封止材は、脱炭素や電動化と関わります。一方で、EV需要は政策や地域差の影響を受けます。半導体関連はAIやデータセンター需要が追い風ですが、在庫調整や設備投資サイクルに左右されます。
強み
大日本印刷の第一の強みは、印刷技術を横展開してきた技術の幅です。活版印刷やグラビア印刷から、包装、建装材、カード、ディスプレイ、半導体部材へ広がってきました。これは単なる多角化ではなく、精密加工、表面加工、情報処理、セキュリティという共通技術の展開です。
第二の強みは、情報セキュア領域です。ICカード、決済カード、BPO、認証、データ・プリント・サービスなど、個人情報や重要情報を扱う事業では、信頼が非常に重要です。大日本印刷は、証券印刷やカード、帳票、行政・金融向け業務で長い実績があります。デジタル化が進むほど、セキュリティと運用力の価値は高まります。
第三の強みは、エレクトロニクス部門の高収益性です。2026年3月期のエレクトロニクス部門は、売上高2,518億円に対してセグメント利益507億円でした。ディスプレイ用光学フィルム、メタルマスク、フォトマスク、リードフレームなどは、高精度な製造技術が必要で、差別化しやすい領域です。
第四の強みは、ライフ&ヘルスケア領域の成長余地です。リチウムイオン電池用バッテリーパウチ、太陽電池封止材、モビリティ用加飾フィルム、包装、建装材、医療・ヘルスケア関連は、環境、電動化、快適性、健康と結びついています。紙印刷とは違う成長領域を持つことは、大きな強みです。
第五の強みは、顧客基盤の広さです。出版社、金融機関、自治体、メーカー、小売、食品会社、日用品会社、自動車関連、電子部品メーカー、半導体関連企業まで、幅広い顧客と関係があります。印刷会社として長く企業活動の裏側を支えてきたことが、事業転換時の土台になります。
弱み・リスク
大日本印刷の第一のリスクは、従来型印刷需要の縮小です。出版・商業印刷、紙帳票、ビジネスフォームは、デジタル化により長期的に減少しやすい領域です。構造改革が進んでも、縮小する事業を抱えていることには変わりません。成長領域が縮小領域を十分に上回る必要があります。
第二のリスクは、事業が広すぎることです。情報、包装、建装材、電池部材、太陽電池、ディスプレイ、半導体、飲料、教育、フォトイメージングまで、非常に幅広い事業を持っています。多角化は安定性につながる一方、経営資源が分散し、低収益事業が残りやすくなります。事業ポートフォリオの見直しが重要です。
第三のリスクは、エレクトロニクスの市況変動です。高収益な部門である一方、半導体やディスプレイの需要変動、顧客在庫調整、為替、設備投資サイクルに左右されます。2026年3月期も、半導体製造用フォトマスクの設備投資・開発投資による固定費増加や、ディスプレイ関連の影響がありました。
第四のリスクは、成長投資の回収です。大日本印刷は、注力事業へ投資を進めています。電池部材、太陽電池関連、半導体関連、BPO、認証、海外展開などには設備投資や研究開発が必要です。投資が先行しても、市場成長や顧客獲得が遅れれば、利益率を圧迫します。
第五のリスクは、資本効率です。2026年3月期のROEは8.9%でしたが、長期的にはROE10%以上を目指しています。資産規模が大きく、設備投資や政策保有株式もある企業であるため、資産効率改善と株主還元が評価の鍵になります。利益が出ても、資本効率が上がらなければ株式市場からの評価は高まりにくくなります。
数字で見る大日本印刷
大日本印刷を見るときは、売上高、営業利益、営業利益率、セグメント別利益、ROE、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、自己株式取得、配当を確認する必要があります。
2026年3月期の売上高は1兆5,125億円、営業利益は1,010億円、経常利益は1,192億円、親会社株主に帰属する当期純利益は1,039億円でした。営業利益率は6.7%、ROEは8.9%、自己資本比率は58.5%です。売上高は前期比3.8%増、営業利益は7.9%増となり、増収増益となりました。
セグメント別では、スマートコミュニケーション部門の外部顧客への売上高は7,486億円、セグメント利益は400億円でした。ライフ&ヘルスケア部門の外部顧客への売上高は5,120億円、セグメント利益は372億円でした。エレクトロニクス部門の外部顧客への売上高は2,518億円、セグメント利益は507億円でした。売上規模ではスマートコミュニケーションが最大ですが、利益率ではエレクトロニクスが際立っています。
キャッシュフローでは、2026年3月期の営業活動によるキャッシュフローは403億円でした。投資活動によるキャッシュフローは736億円の支出、財務活動によるキャッシュフローは233億円の収入でした。自己株式取得や社債発行、配当なども含め、財務戦略の動きが大きい会社です。
2027年3月期の会社予想では、売上高1兆5,300億円、営業利益1,080億円、経常利益1,240億円、親会社株主に帰属する当期純利益950億円が見込まれています。年間配当は41円の予想です。部門別では、スマートコミュニケーション部門は売上高7,420億円、営業利益430億円、ライフ&ヘルスケア部門は売上高5,160億円、営業利益390億円、エレクトロニクス部門は売上高2,740億円、営業利益540億円の計画です。
中期経営計画では、2028年度に営業利益1,300億円、ROE9%を目指しています。2031年度には営業利益1,500億円以上、ROE10%を計画しています。2026年3月期の営業利益1,010億円から見ると、さらなる成長には、スマートコミュニケーションとライフ&ヘルスケアの利益率改善、エレクトロニクスの成長投資回収が必要になります。
今後の注目ポイント
今後の第一の注目ポイントは、スマートコミュニケーション部門の成長です。BPO、認証・セキュリティ、決済カード、フォトイメージング、出版・教育、XRをどう伸ばすかが重要です。出版・商業印刷の縮小を、BPOやセキュア領域の成長で補えるかを見る必要があります。
第二の注目ポイントは、ライフ&ヘルスケア部門の高機能材です。リチウムイオン電池用バッテリーパウチ、太陽電池封止材、モビリティ用加飾フィルム、包装、建装材は、環境対応や電動化、快適な生活と関わります。特にバッテリーパウチは世界トップシェア級の強みを持つ一方、EV需要や政策変化の影響を受けます。
第三の注目ポイントは、エレクトロニクス部門の持続性です。エレクトロニクスは利益率が高く、全社利益への貢献が大きい部門です。半導体関連、ディスプレイ用光学フィルム、メタルマスク、フォトマスクの需要がどう動くか、先行投資が利益に結びつくかが焦点になります。
第四の注目ポイントは、事業構造改革です。縮小する印刷関連事業や低収益事業をどう整理し、注力事業へ経営資源を移すかが重要です。大日本印刷は歴史が長く、事業が広い会社であるため、構造改革には時間がかかります。数字としては、営業利益率とROEの改善に表れるかを確認する必要があります。
第五の注目ポイントは、財務戦略と株主還元です。大日本印刷は政策保有株式の売却や自己株式取得を進め、資本効率改善を打ち出しています。安定配当だけでなく、自社株買い、資産圧縮、成長投資のバランスが評価されます。投資家にとっては、事業利益だけでなく、資本政策も重要な論点です。
投資対象として
大日本印刷を投資対象として見る場合、同社は「印刷会社」ではなく、「印刷技術を起点に情報、包装、電子部材へ広がる複合ものづくり企業」と整理できます。
ポジティブに見るなら、同社には複数の成長領域があります。BPO、認証・セキュリティ、決済、フォトイメージング、環境対応包装、バッテリーパウチ、太陽電池封止材、モビリティ用部材、ディスプレイ用光学フィルム、半導体関連部材は、社会のデジタル化、脱炭素、エネルギー転換、AI・半導体需要と結びつきます。
また、エレクトロニクス部門の収益性は高く、全社利益を支える大きな柱です。スマートコミュニケーションとライフ&ヘルスケアが安定的に伸び、エレクトロニクスが高収益を維持できれば、営業利益1,300億円、ROE9%への道筋が見えてきます。
一方で、慎重に見るべき点もあります。紙印刷の縮小は構造的であり、成長事業の伸びが低収益事業を上回らなければ全体の利益率は上がりません。エレクトロニクスは高収益ですが、市況変動を受けやすい部門です。ライフ&ヘルスケアの電池・太陽電池関連は政策や需要変動に左右されます。複合企業であるため、どの事業が利益を出しているかを分けて見る必要があります。
したがって、大日本印刷の株価を見るときは、売上高だけでなく、営業利益率、セグメント別利益、エレクトロニクス部門の利益率、スマートコミュニケーションのBPO・セキュア成長、ライフ&ヘルスケアの高機能材、営業キャッシュフロー、ROE、自己株式取得を確認する必要があります。投資対象としては、安定した大企業である一方、評価向上には成長領域への集中と資本効率改善が不可欠な会社です。
まとめ
大日本印刷は、1876年創業の秀英舎と1907年創業の日清印刷を源流に、1935年に発足した日本を代表する印刷会社です。出版、証券、包装、商業印刷から始まり、現在では情報セキュア、BPO、包装、高機能材、建装材、ディスプレイ、半導体関連部材へ事業を広げています。
大日本印刷 ビジネスモデルの特徴は、印刷技術を情報処理と精密加工の両面に展開していることです。スマートコミュニケーション部門ではBPO、認証、決済、フォトイメージング、出版・教育を扱い、ライフ&ヘルスケア部門では包装、バッテリーパウチ、太陽電池封止材、建装材を扱い、エレクトロニクス部門ではディスプレイ用光学フィルム、フォトマスク、メタルマスク、リードフレームを扱います。
一方で、課題も明確です。紙印刷需要は縮小し、事業が広いため経営資源が分散しやすく、エレクトロニクスや電池部材は市況変動を受けます。2026年3月期は売上高1兆5,125億円、営業利益1,010億円と好調でしたが、2028年度の営業利益1,300億円、ROE9%へ向けては、成長事業への集中と低収益事業の構造改革が欠かせません。
就活生にとって、大日本印刷は印刷だけでなく、DX、BPO、認証、セキュリティ、決済、包装、建装材、電池部材、半導体部材、フォトイメージング、教育・文化に関われる会社です。個人投資家にとっては、売上規模ではなく、どの部門が利益を出し、どこに成長投資し、ROEをどう高めるかを見るべき企業です。
大日本印刷は、紙に情報を刷る会社から、情報・生活・電子部材を支える会社へ変わってきました。その印刷由来の技術を、デジタル社会、脱炭素、半導体需要の中でどこまで利益成長に変えられるか。そこが、大日本印刷 企業研究の最大のポイントになります。